第6期決勝時の、#17墜落堕落短絡娯楽(西直)への投票です(4票)。
1000文字で構成された文章を読んで、たしかに何か小説のようなものを読んだのだと満足できる場合というのは、人によってさまざまでしょうけれど、私については、そこに空気といったものが感じられるか、たしかな世界を垣間見ることができたという手応えがあったか、そういったものが肯定されたときに、いちおうの満足を得られるような気がしています。
今回については、『墜落堕落短絡娯楽』に、もっともそれが感じられました。語りの自然さ。思考の流れのしなやかさ。特に目を惹くような表現などは見受けられず、どちらかといえば拙さを感じさせるような文章にも読めるのですが、たしかにその場所がかなり明確にイメージできる。無駄な言葉、文章というのもなく、すっきりと潔く語り切っている、そういう気持よさがありました。
他の2作品については、たしかにそれぞれの面白さがあったのですが、作り物めいた、という印象が残りました。小説っぽいお話。
『なくした消しゴム』は、話の面白さ、文章の軽やかな滑稽さ、が魅力ではあったのですけれど、ほとんどの文章が説明に費やされていて、その説明自体がそれほど面白くは読めない。「そういえば、消しゴムって、最後まで使った覚えってないなあ」という、発見はあるのですが、それだけで話を押し切ってしまっているような印象がありました。もっとも、結局はゴミ袋に放り込む、という結末には、なんというか、ある姿勢が決然と貫かれているような気がして、妙に惹かれるものがあるのですけれど、残念ながら、感動するほどまでにはいきませんでした。
『ゴーレム』については、初読のときは、かなり面白く感じたのですが、再読すると、さほど魅力を感じませんでした。それはおそらく話の転がり方がわかってしまっているから、なのでしょうけれど、ともかく途中まで、話の進み方としては面白くても、書かれている内容そのものがつまらない。というのは、「従順な僕」「傲慢な俺」「理性の私」について、語られていることが、類型的で、発見がないから。再読する楽しみが感じられない。「面白いお話」ではあるけれど、文章を楽しむ、という娯楽が、残念ながらあまりなかったように思われました
参照用リンク: #date20030218-232554
小説以前に、言葉を追うことのおもしろさ、というので『墜落堕落短絡娯楽』が好み。もちろん作品のムードに関することであって、『ゴーレム』の平淡な叙述は作品とよくマッチしているとは大いに認めるところだけれども、ここで損をしており、この損を超える物語であるかといえば、いささか弱い。いったんプロットが知れたあとには再読する気がおきない。『墜落堕落短絡娯楽』は物語の展開に脈絡がないようでいてあるという、バカらしいようでいてバカらしくない物語の手本のようなもので、そこに自殺という重いテーマを持ってきて軽薄な叙述で爽快に描いてみせたのは、すばらしいセンスのたまものだと思った。これには再読で失せない魅力がある。
参照用リンク: #date20030218-231502
タイトル、内容共にしゃれている。この手の言葉遊びは、やりすぎるとひんしゅくを買うが、この作品は鼻につく寸前で抑えている。こういうセンスは努力で身につくたぐいのものではなく、おそらく持って生まれたものだろう。器用そうな作者なので次回作も何かやってくれそうで楽しみである。(ラ)
参照用リンク: #date20030212-065401
悩みました。正直言って、どの作品が優勝でもおかしくないと思いますが、しょうがないので消去法を併用しました。『ゴーレム』は「理性」の語にひっかかりを覚えました。『なくした消しゴム』は「ひしめく」に。って、掲示板での指摘を鵜呑みにしてるっぽいですが、作品を読んだ後に掲示板を読みました。やはり、同じことを感じる人がいるもんですね。
推薦作品は「パンツ」という「つかみ」と、自殺を制止されなかったことがかえって思いとどまった理由になったというラストが好みです。うんといぢわるしてほしいもんです。ただし、自殺がらみの話は個人的に安直さを感じるので、今後はよほどの工夫を凝らさないと、票は入れないと思います。「自殺」という語を見た瞬間、読む意欲が半減します。
参照用リンク: #date20030210-204355