第6期 #12
なにもかもがいやになって家を出て、空地を掘り返し、土で人型を造った。ふうっと息を吹きかけると、それは僕になり、僕はそのまま家に戻った。
僕は従順だった。
学校では皆にいろいろなことを押しつけられた。なんでも僕にやらせればいい。そんなふうにいわれた。
一人で教室を掃除し、十三人分の宿題を終え、家に帰っても母はいなかった。
僕はなにもかもがいやになり、家を出て空地に行き、土で人型を造った。息を吹きかけると、そいつは俺になり、俺はそのまま家に戻った。
俺は傲慢だった。
しかし誰もが俺を頼りにした。職場での同僚や後輩はもちろん、上司も先輩も取引先も、俺に指示を求めてきた。
しかし、いつも一人だった。誰もが俺の顔色をうかがった。俺に従うばかりで、自分の意見をいうのものはいなかった。飲み会で、俺が先に帰るというと、そこには安堵と喜びの空気が広がった。そして家に帰っても母はいなかった。
俺はすべてを投げ出して、空地に行き、大きくあいた穴に降り、さらに深く穴を掘った。掘った土で人型を造り、息をかけると、それは私になった。
私は理性だった。
家にいないと思いこんでいたが、行き場のない母はどこかに隠れているのだと推理した。
そして、風呂桶に隠れていた母を見つけ、問いかけた。
「どうして私は人に嫌われるのでしょうか?」
「ばかだねえ、おまえは」と母はいった。「そんなこと決まっているだろう。おまえが人間じゃないからに決まってるじゃないか」
母は桶から腕を伸ばし、私のシャツをめくった。
「ほら、へそがないだろう」
私の腹にはへそがなかった。
私は、肉体にいいしれぬ畏れを抱いた。私は完璧だと思っていた。が、それは、まったくのまちがいだったのだ。
なにもかもがいやになった私は家を出て、生まれ故郷の、あの空地に向かった。
空地には無数の死体が、いや、人のかたちをした土塊の残骸がいたるところに倒れていた。
私はへそを探した。土塊、一体一体の腹をさぐった。しかし、たったひとつのへそすら見つけられなかった。
私は絶望し、空地に掘られた穴のなかへ降りていった。
穴の底に一本の腕が突き出ていた。それは土ではなく、まるで人間の身体のような色をしていた。私がそれに触れようとすると、
「そいつにはへそはないよ」
と声がした。
ふりかえると母が穴の上に立っていた。
母は、だれかのへその緒を持ち、見下げるように笑っていた。