第54期 #16

擬装☆少女 千字一時物語9

 女の子って良いな。硬質じゃない感じ、フォーマルなスーツを着ていてもどこか柔らかみがあって、おしゃれしてふわふわな洋服を着ているのを見たときなんか、僕の心もふわり暖かく心地よくなるみたい。
 僕だって女の子が好きだよ。だから髪の手入れとか顔の脂汚れとかムダ毛の処理とか、いつも気にしてちゃんとしてる。でも僕は小柄で痩せっぽちでカッコ良くなくて、女の子にモテたことなんか一度もない。それでも僕は女の子を見ると良いなって思って、僕のものになったらなっていつだって思ってる。
 だから、他の人が聞いたらだからってわかってくれることはないと思うけど、僕、眠るときはネグリジェを着て寝てるんだ。だって、眠るときは身も心も暖かく、心地よく寝たいじゃない。柔らかいネグリジェは、身体も暖かく包んでくれるんだよ。怖い夢を見ても大丈夫、ネグリジェが優しく包んでくれるのが感じられれば、安心できる。
 淡いピンクに小さな花柄が散りばめられた、ガーゼ生地の長袖ネグリジェの前ボタンを開く。生地が柔らかくて、手に持っているだけでもうふわふわ、夢気分になりそう。右腕を袖に通す。二の腕のあたりのリボン飾りのところだけ少しすぼまっていて、親指や小指が軽く擦れる。気持ち良くて、そのまま眠ってしまいそう。手首のところにもリボン飾りがあって、手首から体温が逃げないようになっている。出した手が寒くなっちゃう、このまま手を出さないでいちゃおうかと、迷っちゃうくらいにふわふわ暖かい。でもそれじゃボタンを留められないから袖から手を出して、左腕も袖に通す。そうしてネグリジェを羽織ると、ふわりとした感触が全身を包む。思わず目を閉じて、ほっと一息つく。開いている前がちょっと寒くて、上から順にボタンを留める。早く全部留めて眠ってしまいたいのに、でもそれすら待てずに眠ってしまいそうで、なかなか手が進まない。ベッドに腰掛けて、ようやく膝下のボタンを留める。
 丸首と手首とポケットと裾にピンクのチェックのフリルがあしらわれていて、同色のリボンやボタンと合わせて可愛らしい。眠い目を擦って袖を通した手を見やる。ふわふわな女の子の袖がそこにあって、たまらなく安心する。吐く息はもう暖かくて、寝息のように穏やか。ベッドに潜りこむとガーゼがもっと体に触れて、もっと暖かくなる。これが僕の欲しい心地よさ。それに満足して、丸くなって目を閉じる。
 おやすみなさい。



Copyright © 2007 黒田皐月 / 編集: 短編