第54期 #17

コヨーテの夜

絡まったタイを緩め、草むらに寝転ぶ。
冷たい風が波のように、ほてった体を撫でてゆく。
スーツのまま草むらに寝転んでいるのは、
酔っているせいだけだろうか。
漆黒の闇に浮かぶ月は、大地や頬を照らす。

幼い頃、いつも不思議だった。
縁日。
賑わい人ごみで溢れかれる屋台。
緑亀を最中のお玉ですくう瞬間。
大きく成長し、売り物にならなくなったら、どこに行くのだろうかと。

ホームセンターで見かけるショーウィンドケースの子犬や子猫。
大抵、寝ているか、餌をもらう方角で固まっている。
モモンガ、セキセイインコ、モルモット、ハムスター、蛇、熱帯魚、残数が無いような在庫管理が行なわれているのだろうか。

喉がやけに渇く。
土手まで下り、河の水を四つん這いになり、わざと卑猥な音たてて飲む。
血の味しかしない。
どこかで、口の中を切ったようだ。
シャツで拭うと赤く滲んでいる。

勝手に第三カ国と名づけ。
馬鹿みたいに安い人件費で働かせる。
自立させるためには、援助は必要ない?
だったら、対等な賃金、労働条件にさせなよ。

日本の地方にも、そのシステムが押し寄せてきている。
産業の空洞化は、今に始まった事ではない。

金持ちの子が金持ちの子を産み。
貧しい子が貧しい子を産む。

TVでは、巨乳グラビアアイドルが、
尻のような胸を出し、はしゃぎまわり、楽しさを演じている。
「これぐらい媚売っとかねぇと出られないんだよ。文句あっか。」
悲壮に満ちた声がする。

俺らもくたびれ果ててるものな。
こいつら見て楽しんでたら、安いものか。
納得する。

呼吸しているこの数秒の連続。
国の借金は、増え続ける。
草原は砂漠化し、
地雷で農民の足は玩具みたいに飛び散り、
氷塊は、音をたてて溶け出す。

地殻の変動が聞こえるか、生い茂った草を掻き分け、耳をたててみる。
聞こえてくるのは、自分のアルコールにまみれた心臓の高鳴る鼓動ばかり。
雑草のむせかえるような青臭さ。

睾丸の左右の大きさで、いつも論争になり、
8歳も満たないストリートチルドレンは、
金を持った外国の男どもにペニスでえぐられる。
羊の血一滴をも活用するように、
臓器をとられ、殺される。

木々の中を駆け回りながら、水面に映る影と踊る。
雲の切れ間から月が見え隠れしている。

俺は野犬となって、夜吼える。
得体の知れない怒りに突き動かされ。

それでも子供達の目は、大きく瞬く。
真昼に光り輝く星のように。



Copyright © 2007 otokichisupairaru / 編集: 短編