第54期 #15

悲しいUntrue power

 あいつが学校に来なくなって1年近くが経つ。幼馴染だったけど5月ごろから学校に来なくなった。今、学年が変わろうとしている。もう中学3年だ。あいつとはもう全く会ってない。

 新しく2年生に上がった時、僕はみんなと仲良くなっていった。だけどあいつの友達は僕だけだった。僕はあいつのそういうところを、少しずつ嫌になり始めた。あいつが学校に来なくなったのは、僕がそう思い始めた矢先のことだった。
 最初はみんなも心配して、あいつの様子を僕に聞いたりしてたけど、ひと月も経たないうちに忘れていった。僕もみんなと同じように忘れていった。
 あいつが忘れられた夏休み明けから、クラスでいじめがはやり始めた。クラスの一人が標的になった。発端は僕だった。少しだけ気に食わなかったそいつを、クラスの真ん中に置いておきたくなかった。多分そいつも僕のことを好きじゃなかった。端に置いておけば僕も嫌いやすい。そいつは学校にき続けているけど、どんな時も笑顔をつくって心を隠そうとしている。
 昔はいじめなんてしたことがなかったけど、要領と環境が整えば簡単だった。2学期になってからは、僕の足首をつかもうとするやつを蹴り落とすことがうまくなっていった。その力が僕を支えた。

 だけど最近3学期になった今、問題が起きた。いじめ問題がテレビやニュースで騒がれるようになった。周りのやつの目がよそよそしくなった。だんだん僕からみんなが離れていった。ニュースを聞いて僕もぞっとする感覚を覚えた。そいつへのいじめはなくなった。
 今までの僕の力であった環境と要領は、今はそいつの手中にある。でもそいつには環境も要領も要らない。僕にはない大きな力をこの一年で身につけていた。
 今そいつがクラスの中心にいるわけではない。でもそいつには僕たちクラスのみんな、いやもっと大きな、世界に対して大きな力を持っていた。
 
 2年生としての終業式が終わった。今日僕は、誰とも話さなかった。僕は今、5月から学校に来ていない、あいつの家の前にいる。ただ動けずチャイムも鳴らす勇気のない僕がいる。頼る力のない僕がいる。

  あぁ、お前は今どうしているんだ
  勇気の先は見えたか
  前進する手掛かりをつかめそうなのか

 今回のことでお前への気持ちが蘇ってきた僕。
 だけどお前への優しい言葉の陰に、お前の存在を当てにする僕がいる。……。



Copyright © 2007 bear's Son / 編集: 短編