第52期 #7
ある日小さな男がやってきて、慇懃無礼にこう言った。
「あなた様の懸想されているお隣にお住まいのご婦人は、この世界をお作りになった創造主様であらせられますから、あなた様一個人がどうこうできるわけもないので、どうぞ潔くお諦め下さいますように」
余計なお世話なので黙って玄関の扉を閉めると、居間の窓からのぞいている。
目が合うと、先ほどとまったく同じ台詞を一言一句違わずに繰り返すので、カーテンを閉める。
すると今度は台所の窓からのぞいていて、先ほどとまったく同じ台詞を一言一句違わずに繰り返すので、窓を閉めて衝立で遮る。
いい加減に諦めただろうとトイレに入ると、トイレの小窓からのぞいているので、何か言い出す前に小窓を閉めた。
先回りして洗面所に行き、窓を閉める。磨りガラスだから外からは見えまい。
すると、風呂場から嫌な感じに反響した声が聞こえてきた。
「あぁなぁたぁさぁまぁのぉけぇそぉうぅさぁれぇてぇいぃるぅ…」
慌てて風呂場の窓を閉めに行くと、窓枠にぶら下がるようにして例の小さな男がのぞいていた。
問答無用で窓を閉めると、静かになる。
台所に戻って衝立をどかし、窓を開けてから、すぐに隣家に出かけて隣人の家の呼び鈴を鳴らす。
隣家の女性はすぐに出てきて、また行きましたかと言ってため息をつきながら深々と頭を下げた。
「本当に、いつもご迷惑をおかけしてすみません」
いいんです。笑顔でそう答える。あの男の言うことは、半分正しいのだ。
女性と共に家に戻り、台所に向かう。
有名な人形作家の彼女は、床に落ちていた人形を掴むと、いつものように幾度も謝りながら隣家へと戻って行った。