第52期 #6

心の中で

 寒空の冬、週末の博多駅構内を黙々と抜ける。
 寒さで足取りも無意識のうちに早くなって行き予想以上の速さでマンションに着いた。
 明かりを点けて惣菜と炊いていた御飯に喰らいつく。
 一人暮らしも早二年が経ちの専門学校に入学したものの、意のままに出来ない妄想と冷たくあしらう現実に直面している自分に苛立ちと不安とが同時に湧きあがる。
 チャンネルを回しバラエティ番組を眺めながら焦燥感に満ちた自分の気持ちを落ち着かせてみる。
 芸人の芸でさえ生き残るための大切な職なのかと思うと改まった角度から見てしまい笑うことさえ困難な状態になる。
 すさみきった気持ちの中でベースを抱え込み鳴らしてみると、いつものように狭い四畳の部屋を低音が包み込んだ。
 数分後、Smashing Pumpkinsの「Tonight Tonight」をかけ、自らの弾くベース音と楽曲を合わせる。
美しい旋律が心を満たしビリー・コーガンの歌声が高らかに情緒豊に響き渡る・・・。
 曲の終盤「The impossible is possible tonight,Believe in me as I believe in you tonight.」(不可能は今夜、可能になる。
今夜、私はあなたを信頼するから貴方は私を信じて)と歌う部分でゆっくりと弾き終焉を迎える。
 曲中の純粋な感情とは裏腹に、歌詞にさえ溶け込んでしまいたくなる自分が居て恥ずかしくなる。
 無知な人間が世間から逃げるかのように助け舟を必死に探そうとしている、こんな間抜けな姿がどこにあるのだろうか?
 親の前に顔を会わせるのも後ろめたく感じる我が身に冷たい風が窓から吹き、身を刺すその瞬間に涙が流れた。
 二十年という歳月の中で親孝行も出来ない若者に対する警告なのだろう。
 所謂、世間でのニートやフリーターという現実を否定しながら学校という盾の中でプライドとエゴだけが育ち傲慢になった自分に。
 抵抗力の無くなっていく日本の子供はどこまで落ちぶれていくのだろうか?
 甘えという薬でラクを知り、歳を重ねるにつれ副作用がやってくるのだ。
 同じ現実が起こり自分だけではないと集団的心理で物事を考えどんどん派生していく現状。
 先行きの見えないレールを渡り自分は何を考えるんだろう?
拭えない不安に苛まれながら床に就いた。
翌朝、テレビをつけて目に付いた文字は「また自殺・・・」だった。
  
 
 



Copyright © 2007 / 編集: 短編