第41期 #25

原っぱの決斗 キツネ対メカダヌキ

 睨み合う五匹の狐と五匹の狸。空は漆黒。新月の夜。十匹の禽獣をかすかに照らすは空にきらめく北斗七星。古来より狐の守護星である。狸の守護星は特にない。
 狐勢の五傑はいずれも名の知れた古豪。対峙する狸たちは若く非力だ。しかし妖力で劣る若狸は、代わりに愛嬌という名の武器を持つ。親しんだ人間たちから提供された科学技術を頼みとし、遂に誕生、機動畜獣メカダヌキ。五対五の壮絶な化け比べに勝ち残った側が日本の野原の覇権を握る。風雲。畜生関ヶ原。

 一陣の風がススキを揺らす。先に仕掛けたのは狸勢。全身に銀色のパネルをまとった媚助狸が飛び上がる。発光したパネルから炎が噴き出し、一瞬にして火の玉へと変じる。火球は首領の小夜衣狐めがけて轟々と飛びかかるも、小夜衣の切れ長眼は火の玉を一顧だにしない。代わりに隣の一目狐が濛々とした不定形の暗黒物質に変化する。彼は宇宙に化けたのである。古来より狸が有形的・即物的なものに化けたがるのに対し、狐は無形的・観念的存在への変化を志向する。
 酸素なき宇宙に包まれた媚助火球は燃え尽き、そして力尽きた。

 宇宙はそのまま狸陣営を攻め立て、四匹を大回りに取り囲んだ。狸という生物は宇宙活動に耐えうる生体機構を備えていない。故にこれは一大危機である。しかし狸たちに慌てた様子はない。彼らには金七狸と金八狸がついている。金七・金八の手足といわず尾といわず、あらゆる箇所からシャフトが飛び出し、互いに連結し、そしてアポロ11号月着陸船へと変じるその早業。変化というより、もはや合体・変形である。残る二匹は素早くアポロへと乗り込み、まんまと宇宙をやりすごした。調子者の豆蔵などはアームストロング船長に変化して、窓越しに狐に向かって手まで振っている。
妖力が絶えて正体を現した一目狐を、着陸船は昆虫のような脚でカサカサと追い回して踏み潰した。これで四対四。振り出しである。

 少し離れた丘の上では、この大一番を観戦しようと人間たちが黒山の人だかり。ネットに書き込まれた荒唐無稽な情報を頼りに集まった若者ばかりである。有志が用意した五台の赤外線望遠鏡を少しでも長く覗こうと、あちこちで諍いが起きている。

「すげえ。仮装大賞よりすげえ」

 新月の夜。丘の上には馬が五頭。尻を並べて立っている。人間たちはしきりに感心しながら馬の肛門を覗きこんでいる。そしてその横では、狐と狸が腹を抱えて、声を殺して笑っていた。



Copyright © 2005 ヒモロギ / 編集: 短編