第4期 #15
彼らは野生動物の体内時計で正確に十二月二十四日を知っている。そして今年も、束の間の越冬のために彼らが渡ってくるその日がきた。
オーストラリア以外に生息する有袋類は、現在、オポッサム類とこのフクロシロヒゲタカワライしか残っていない。一年のほとんどを北極圏で暮らすが、年に一度この日だけ、たった一泊二日の越冬のために欧米各地そして日本へも渡ってくる。ただ、日本には彼らの好む家屋の煙突があまりないためにもともと渡来数が少ないのに加え、種全体としても、共生関係にあるアカハナトビトナカイともども個対数が激減しており、環境省はこれを絶滅危惧IBに分類し、捕獲が禁じられている。
しかし、それでもなおタカワライの密猟は後を絶たない。
「きた!」と父はかたわらで凍える息子に言った。「聞こえるだろう? あの音だ」
「鈴? 鈴みたいな音だね」
かつて猟師たちは、この音を聞けばたちまち空に銃口を向けたものである。雪の深い山中に身をひそめた密猟者親子にも、その便宜は同様だった。
「よく覚えておけ。この音だ。それから――」
ホ! ホ! ホ! と、南米のホエザルに似た奇声が、夜空のかなたから聞こえてきた。和名の由来になっているこの鳴き声もまた、彼らに乱獲の悲劇をもたらした皮肉な特徴である。
父は空をにらんだ。
「いた! あそこだ」
息子も目を輝かせて、生まれて初めて見る生きた野生のタカワライを認めた。
冬の月明りに真っ赤な体色が映えている。四頭のトビトナカイが牽引するソリ状の物体の上で、それは高らかに笑うかのごとく鳴いていた。
そして銃声。
「やった!」と息子が叫んだ。「当たったよ、たぶん。鳴き声がやんだ」
「いや、外れた。あいつでなく、トナカイに当てなきゃ落ちてこない」
またも銃声が二つ夜空を貫き、トビトナカイ二頭の悲鳴が続いた。二頭の重みでほか二頭を巻き込みながら、ソリ状の物体は落下を始め、やがて林の向こうに墜落した。
雪をかきわけて親子がたどり着くと、息子は、半壊状態のソリ状物体からタカワライの死骸を発見し、その背中の袋をまさぐった。手に触れたのは、小さなタカワライだった。
「なんだ、メスだったのか」と父は肩を落とした。「また別なのを撃ってやる」
しかし息子は首を振った。
「これ、飼ってもいい?」
「じゃあ、それが今年のプレゼントだ」
小さなタカワライは、少年の手の中で、ホ! ホ! ホ! と悲しげに笑った。