第26期 #2

ゾウのパレード

 ハルキにさそわれてゾウの国へいく。
 ただしハルキはゾウとは呼ばない。
 ゾウタ。
 アクセントは独特で語尾がぴょこんとあがる。

「ゾウタ、ゾウタ」と電車の中でおしえてくれる指の先をみると、恐竜がいた。
 わたしのもっているかばんには、ずんぐりむっくりの、車のぬいぐるみがついている。
 それにはなぜか尻尾がついていて、彼に言わせればそれもゾウタ。
 わたしはそれらを否定できない。

 ゾウタ、ゾウタ、ゾウタ。

 ゾウタの国へは車で三十分。わたしのうちは田舎にあるのでゾウの国は近い。
 空色の四角い車にハルキを乗せて旅に出た。
 川べりの駐車場に車を停め、そこからてくてくとゾウの国へ向かう。
 ゾウの国へはそこから三十分かかるのだ。ハルキとは。

 すっかりピクニック気分のハルキは(アン)パンマンのかば(ん)を背負って、肩紐をすこしずらしてあるいていく。わたしの手にしっかりつかまって、ハルキは、時にタップダンスのようなステップを踏みながら、時に地団太を踏むようにその場で足を踏み鳴らしながら、あるくことが目的のようにあるく。

 あ、ブーブー。あ、ブーブー。あ、ブーブー。

 彼は駐車場に並んでいる車を点呼しながらあるく。

 ゾウの国にはゾウが、駐車場のクルマほどでないけれど、たくさん、たくさん、いる。

 ゾウタ、ゾウタ、ゾウタ。
 ここはゾウの老人ホームで彼らはみな一様に健康ランドの老人のような目をしている。
 ゾウの国の王様は、電車で三十分かかるところにゾウの温泉をつくっているそうだ。

 ゾウタと一緒に写真を撮る。ハルキはゾウタの鼻に一回、ゾウタの背中に一回乗った。

 昔、トモキと一緒に、ゾウの国へ来た。そのときは雨が降っていた。ゾウはみな一様に寂しそうな目をして、押し黙っていた。ゾウのパレードは中止になり、人里離れたゾウの国はひとはまばらでゾウの方がおおいくらいだった。トモキはのちにタイに行き、ほんとうのゾウの隊列をみたと言った。彼はタイでゾウに祝福されて式をあげた夢をみたそうだ。いっそそのままタイにいてくれたらとおもったが彼はいまでもイチハラにいるらしい。

 ゾウのパレード。老ゾウが目の前を列をなしてあるいていく。これが本当のパレードでなかったら、パレードとはいったいなんなのだろう。
 その晩ハルキはゾウの夢を見た。
 なぜなら彼は眠りながらゾウタのなまえを呼んだから。



Copyright © 2004 安南みつ豆 / 編集: 短編