第245期 #4

はじめての料理教室

 朝、起こしに行ったら夫が冷たくなっていた。還暦祝いで二人でとっときのお酒をのんで、またしばらくは三歳ちがいねと笑いあった、そのほんの十日後のことだった。

 あれこれ手続きを済ませるなかで、解約する前にとスマホの通話履歴を確認していたら、料理教室からのLINEを見つけた。通っているという話は聞いていなかったけれど、もともと好きなことを好きなようにする人だったし、履歴を遡ってみたら、先生は夫と親しくしていた同僚の息子さんで、料理を覚えたいがどうすればいいか分からない、とぼやく夫に紹介してくださったらしい。トーク履歴はふた月ほど前から始まっていた。
 半年前わたしたちは二歳ちがいで、わたしはまだ仕事をしていた。職場の健康診断でひっかかって、精密検査を受けて、余命宣告を受けた。あくまで統計上の平均値ですが、と前置きされて告げられた時間は一年だった。

 できるだけ早く再婚してね。ご飯も炊けない人を遺してなんておちおち成仏もできないわ。

 思っていたより早いけど終活しなきゃね、と言ったわたしに馬鹿、とだけ答えた夫はあのときどんな顔をしていただろう。
 目を伏せていないで、ちゃんと見てあげていればよかった。



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