第245期 #3

雪降る復讐

俺は多分、人から羨まれる人生を送っている。優しい親も友達も休みを共に過ごす異性もいる。俺の人生はそう。今だって。なのに、この胸のざわめきはなんだ?あぁ、あれだ。あれを墓場まで持っていくことを辞めたせいだ。秘密を、打ち明けたせいだ。
桜が満開になった頃、俺は偏差値の欄に68の数字が書かれているこの高校でいわゆる「青春」の謳歌を始める。俺との休みを過ごせるチケットは常に完売していた。すぐに花も枯れ、季節は冬になった。12月某日、俺は初めて一人で帰った。幾度も通った道でも一人だとなんだか新鮮な気持ちにさせられる。少し体を弾ませながら前へ進んだ。あれ。慣れぬ事はもうしまい、と天に誓い来た道を戻ろうと身体を捻ると深緑の大きな木々に囲まれた中の『お菓子の家』と書かれた看板と目があった。看板の通り家がお菓子で出来ている。屋根がチョコ。これは建築基準法的にどうなのかと思いながらグミ製の取っ手を引く。マシュマロだらけの部屋は甘ったるい匂いが充満していた。出ようとすると戸には"秘密を話ぜ”と書かれていた。俺は昔の事を話した。5歳の頃、隣に住んでいたおじさんを眠らせた。鈴蘭の葉に毒があると知らず緑茶にふざけて混ぜた。警察官の父は自殺ということにさせ、事態を大きくしなかった。戸に向かって話し終わると後ろに同級の雪が居た。雪は確か、昔隣に住んでいた。「あきらくん。」呼び掛けを無視して必死に走った。その後はもう、覚えていない。
次の日、俺の机にクローバーが置かれていた。雪だろう。俺はもうこの人生を楽しむことは出来ない。きっと彼女も。



Copyright © 2023 栗子 / 編集: 短編