第222期 #9

妖精グッバイ

 デスクトップパソコンの動作が妙に重くなったなと思って本体を開けてみたら、中に妖精が棲みついていた。
 妖精は、パソコンの内部に小さなモニター画面を接続し、ネットでアニメを観ているのだという。
「つまり君がアニメを観ると、一台のパソコンに二台分の仕事をさせてしまうわけだ」
「それはすごいね」
「つまりこのパソコンは私のものなのに、君がパソコンの働きを横取りしているから、私がとても迷惑しているということ」
「なんだか、わくわくするね」
 いったいどうしたものかと妖精のことを調べてみたら、彼らには善悪の観念がないことが分かった。それに、気に入ったものは絶対に手放さない性格らしい。
 ようするに、妖精には話が通じないということだ。

 でも、何とか追い出す方法はないかとネットでさらに調べていたら、妖精駆除会社の広告を見つけた。
「しつこい妖精にお困りの皆さまに朗報! 魔法で一発解決できる新サービス『妖精グッバイ』のお得情報!!」
 ものすごく怪しいのだけど、効果があった場合にだけ代金を貰うという料金システムだったので、とりあえず申込んでみた。

 数日後、指定した時間ピッタリに部屋の呼び鈴が鳴った。
 ドアを開けると、魔法の杖らしきものを持ったトンガリ帽子の少女が立っており、無言でぺこりとお辞儀をした。
 私は彼女を部屋に上げ、問題のパソコンを見てもらった。
 妖精は、パソコンの中で昼寝をしている。
「さっそくだけど、駆除を始めるわね」と彼女は言うと、魔法の杖を妖精に向けながら呪文を唱えた。
 妖精は何かに気づいて急に起き上がったが、みるみる顔が紫色になって、悲鳴を上げ始めた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」と私は言って、妖精と杖の間に手を差し込んだ。「こんなやり方だとは、ぜんぜん想像していなかったもので」
「一時的に妖精を弱らせるだけだから、心配はいらないし、そのあとは森へ帰すつもりなのだけど……」

 結局、私は、妖精の駆除を途中でキャンセルしてしまった。
 こちらの都合で断ったのだから代金は支払うつもりだったが、少女は受け取れないと言った。しかし最終的には、半額だけ支払うことでお互いに納得し、彼女は再びお辞儀をして帰っていった。
 妖精は一時間もすると元気になって、いつものようにアニメを観始めた。
「つまり私は、君を追い出せなかったわけだが、自分から森へ帰るつもりはないのかな?」
「帰るところがあるのは、幸せだね」



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