第21期 #12

ネロの帝国

 ネロは国を追われました。まんねん雪がおおう『ふたご峠』をこえ、『わすれな草の野』をわたり、ちいさなちいさな村に流れつきました。そこは『死せるものたちの村』でした。ひとりの少女がネロをむかえいれてくれました。名をロネといいました。
「ようこそ、『そらたかき国』の王子さま」
 ロネは白つめ草の花かんむりを、ネロの頭にのせました。
「きみは、死んでいるの?」
「いいえ。わたしは死せるものたちにさらわれたの。ゆめの中で」
 ロネはほほ笑みました。どこかかなしそうなほほ笑みでした。
「ぼくはこれからどうしたらいいんだろう?」
 ロネはだまってネロをだきしめると、そっとささやきました。
「あなたをずっと待っていたの」
「ぼくを……?」
 ネロのことばは、ロネのくちづけによってさえぎられました。
「かわいそうなネロ。国をなくしてしまったネロ。きずついて、こんなにつかれはててしまったネロ」
 ネロのほほを、なみだがすべりおちていきました。そのなみだを舌ですくいとったロネは、まっ白な馬になりました。
「わたしとなら、あなたはどこへでも行けるわ」
 ネロはまっ白な馬にまたがり、どこまでもどこまでもつづく『白つめ草の野』をかけていきました。死せるものたちが見たこともないまっ黒なけものにのって追ってきました。
「死せるものたちよ、めしいのけものたちよ」
 ネロはおおきなこえでよびかけました。
「ついてくるがいい。『はてなる山々』をこえ、『うずまき川』をわたり、どこまでもどこまでもついてくるがいい」
 ネロと死せるものたちは、『みずきよき国』をうちたてました。ネロは『そらたかき国』をほろぼし、おおきなおおきな帝国をきずきあげました。だいだいの王は、おきさきのつくった白つめ草の花かんむりをいただいた、といいます。まっ白な馬になったロネは、おきさきにこそなれませんでしたが、いつもネロといっしょだったそうです。
 死せるものたちにはあたらしいいのちが、まっ黒なけものたちにはうつくしいなまえがあたえられました。


Copyright © 2004 野郎海松 / 編集: 短編