第20期 #9
250ccオフロードを駆り単独ツーリング途中、山道の小さなカーブでエンジンを切った。
喉がからからだ。コッヘルを持って川に降りると、川べりには三人の僧形の者が座っていた。水を汲もうとする私を留めて言う。
「あなたがわたしに、何か話を聞かせてくれるなら、この川の水をいくらでも飲ませてあげましょう」
「あいにく、話の持ち合わせがありません」
応えたとたん、ばさりと幕を引いた夜になり、背後から放り投げられるように飛ばされていた。落ちたのは、三人の首のない男の足元だった。立派な鎧装束をつけているのだが血と泥に汚れていて、いかんせん首がない。
「そら、また一人来よったわ」
「おぬしなら見つけられるかの」
「早く見つけてたもれ」
傍らのうすくらがりには、川原の大石と見えて、首の塚があった。どれも刀で切り取られたものらしい、血みどろの首の山にすっかり驚愕していると、また背後からどん、と突かれるような衝撃があって、首塚の中に押し倒された。ごろごろと首が幾つも私の両脇を転がり落ちた。
「さあさあ、夜が明けるまでにな」
「われらの首を見つけてたもれ」
「できなければ、おぬしの首も切って塚に混ぜるわな」
三人の武士の手元で、抜き身の刀が血で錆びかけている。
私は首を一つずつ取って、武者の肩の上に載せた。目を剥いたもの、舌が飛び出したもの、血で髪が固まったもの、どの首も置いたとたんにごろごろと転がり落ちた。
次第に空が白んでくる。首を探すふりをして少しずつ遠ざかり、踝を返して逃げ始めた。
すぐに後ろから、どん、と飛ばされる衝撃があった。
「これで話が、できるわな」
「する話が、できたわな」
「聞かれてする話が、できたわな」
朝の日差しが山の端を照らし、木々の葉が光り輝いていた。川原に覆い被さる緑は記憶にあるものよりも鬱蒼として感じられ、いつの時代のどこの朝なのかもわからない。私がこれから会う最初の人に、助けを求めてする話は、この話に違いない。喉がからからだった。