第19期 #6
僕が怪獣になると言ったらたぶん両親は猛反対するだろう
親父の向かいに正座させられ横には母親が座る、そして両親は僕を踏みとどめようと説得を始める、しかし僕の決意は断固たるものでよく考えた末の結論であるからもう後戻りするつもりは無い、両親はそんな僕の性格をよく知っているのでもはや僕が怪獣になることを止めることは出来ないことを悟るのにそう時間はかからないだろう、だから両親はせめて怪獣になるのなら”ゴジラ”になりなさいというだろう、だが僕は怪獣になるなら空を飛べなければ意味は無いと考えているので”モスラ”になるという考えを改める気は無い。
親父の顔はみるみる赤くなり、熟れた柿のようになって、その柿が落ちようというとき、テーブルの上の物が宙を舞った。
僕は宙に舞った灰皿やらウイスキーの瓶やら枝豆のカラやらを吸い込んでガラスを突き破り夜の空へと羽ばたくだろう、硬い殻の下には薄い膜のような羽がまるで小さい頃に遊んだラジコンのモーターのような音を立てて僕を夜の空へと送り出している。
僕は第一志望に”モスラ”と書いて先生に提出したのだがどうやら僕は第三志望の”ラキャストス”という怪獣になったらしい、”モスラ”になれなかったのは残念ではあるが空を飛べるだけマシだ、それに第二志望の墨下鉄工所にならなかったのは不幸中の幸いだった、今考えると墨下鉄工所なんてまっぴら御免だ、一日中気の狂ったキリギリスの合唱を聴きながら油にうたれる生活なんて考えただけでも寒気がする、今ではなぜそんなものに成りたかったのか見当がつかない、きっと怪獣のことだけを考えている怠惰な奴だと思われたくなかったんだろう、僕は昔からそういうところのある人間だった、本当は16色のクレヨンが欲しくても12色で十分、肌色なんていらない、そう思い込みながら自画像を描くような子供だったのだ。
ある家の窓を覗き込むと色鉛筆の赤になった山下君がぬりえの女の子のリボンに頭を擦り付けられていた、乱暴に扱われていた、きっと山下君はすぐに磨り減って消えてしまうだろう、たとえそうだとしても山下君は幸せだろう、だってすべての志望欄に赤い色鉛筆と書いていたのだから、それを曲げなかった山下君は遂に色鉛筆の赤になった、素敵だ。
そして僕は科学特捜隊に退治されるため、都心へと飛び去った。