第19期 #7

父の年賀状

六十五歳を過ぎた俊実は年金を受ける歳になった。が、俊実には父、富蔵がいた。富蔵は逐電したがひょっこり現れ、1年前から引き取っている。本心では世話したくなかった。毎日、行くコンビニにはゆき子という三十三歳の男好きのする後家さんがアルバイト。俊実が競馬の予想をしていると、富蔵がベッドからピンクと叫ぶ。俊実は人気のない8枠から総ながし。大万馬券。富蔵の予想で倍倍にお金が増えていく。俊実はゆき子をデートに誘い、面倒を見てやってもいいと口説く。生活苦のゆき子は俊実に身体をあずけ、すぐに暮らし始める。しかし、その生活は富蔵の予想にかかっている。しだいに富蔵は増長し、ついにはゆき子とキスさせろと駄々をこねた。そのうち金の源泉を知ったゆき子は富蔵に興味を抱く。いじけた俊実はひとりで株に手を出し大やけど。一方、富蔵はゆき子を使って予想会社を設立。あまりの的中ぶりに会員は毎週毎週増えつづけ、1年経つ頃にはオッズを動かすほどの影響力を持ち始めた。有馬記念も撃破した富蔵は金杯の完全的中を宣言。予想した枠連1−5に殺到する競馬ファン。富蔵の予想したオッズは急激な上昇。蚊帳の外の俊実に遅れた年賀状が届く。富蔵からだった。そこには枠連3−6一点と書いてある。追伸に「当たった金で借金を返して、ゆき子と宜しくやってくれ」とあった。会員に出した予想とはまるで違った。何かを感じた俊実は一点張り。ベッドに駆け寄ると富蔵は永遠の眠りに就いていた。レースが始まる。予想した馬は2着3着。外れも審議の青ランプ。恨めしげに富蔵の死に顔を眺めていると、1着馬が失格で降着。繰り上がって的中。喜ぶ俊実。が、そのとき俊実は考えた。富蔵はほんとは外れさせようとしたんじゃないのか。それは永遠になぞのままだ。心なしか富蔵の唇がにやけた気がした。最後まではらはらさせた父がいとおしく思えた。



Copyright © 2004 江口庸 / 編集: 短編