第19期 #5

窓辺に珈琲

 太陽の光を部屋いっぱいに取り入れ、窓辺にいる住人の影が部屋の中央に大きく映し出される。影が部屋いっぱいに広がっているのを見ながら、私は湯を沸かす。

 珈琲はブラックに限る。とは言ってもインスタント珈琲なんだけどね。マグカップに淹れた珈琲はかき混ぜない。溶けきらない粒を口の中に運ぶと苦味が増し、それがなんともおいしいからだ。窓辺の住人も承知しているので、今回もかき混ぜないブラックを差し出した。窓辺の住人は喜んでトゲを赤くさせる。

 だがサボテンは珈琲を飲まない。香りを楽しむのだ。ブラックに浮かぶインスタント珈琲の粒を楽しむ事ができるのは私の特権だった。それでもサボテンは珈琲の香りを楽しみ、私は珈琲の粒を楽しんだ。お互いちびちびやっているものだから珈琲はすっかり冷めてしまう。

 マグカップを満足げに片付け、私はサボテンと向き合った。そのトゲを愛撫しながらサボテンに向かってささやく。

大きくなぁれ 大きくなぁれ
今よりもっと 大きくなぁれ
そうしたら 珈琲が飲めるようになるはずだから
たぶんね

愛撫していた指先から血が流れる。慌てて指を咥えると珈琲のすっぱい味がした。


Copyright © 2004 荒井 / 編集: 短編