第16期 #3
微熱が出てうつらうつらと眠っていても息苦しく
いつものように壁にもたれて足に布団をかけながら座っていると
湯気ののぼる白湯のようなものを持ってくる坊主が入って来て
少々おどろく。
「 どうぞ 」と言われるがままに飲み干すと
米で作った糊のような粘り気のある飲み物で
甘草のような甘みが少し舌に残った。
「 なんでしょうか、これ 」と尋ねると、茶坊主のような
その坊主はもう消えていて、
次から次へと天井から花が降ってくる。
それは紫や紅色の縁取りを持った白い蓮のような
ひらきすぎた百合のような花たちで
あまりに美しいせいか、少し良い気分になった。
なぜか涙がでるほど懐かしい感じがした。
東の窓からぷぅと風が吹いたかと思うと
枯れ草のような色の服を着た兵隊たちが
次から次へと部屋に入ってくる。
なんだ、なんだと思いながらも何処か懐かしく
座りながら敬礼をする。
皆どこか笑っているような口元でつぎつぎと
横並びにすわりだし、きいたこともない歌をうたいだす。
六人か七人かの声が美しく一律となり、花々はまだ降っている。
左に座った小柄な男がやにわに小さな三味線のようなものを渡すので
何やわからぬままかき鳴らし、わたしも唄いだす。
なにを唄っているのかわからないけれどとても嬉しい。
そして懐かしくて楽しい、こんな気分はひさしぶり。
男たちはみたこともない濁った色の酒を持っていて、
かわるがわるそれを飲み干している。
あるものは歌い、
あるものは手を叩き、
あるものは目を瞑り、
あるものは黙ったまま泣いている。
降る花々は膝のあたりまで降り積もり、
香りは徐々に強くなっていった。
「 ほぐさん、忘れたんだね 」
少しうたうのに苦しくなってきた頃に、誰かがきいてくる。
申し訳ない気がして
「 多少はさ、忘れるもんだよ。 」と言ってみるが
「 ははっ 相変わらず嘘吐きだなっ 」と高笑いされ
どうしようかと思う。
けれど唄うのをやめてしまったら彼らが帰ってしまう、
そんな気がしてそれがどうにも嫌で唄いつづける。
気がつくと降り積もった花々は徐々に小さくなり水流に
乗っているかのごとく部屋のドアから
くるくると回りながら流れていく。
何かが終わってしまうように強い芳香が少しづつ消えてゆく。
そうだね、時間はどこにあるんだろう
自由だった流れの、一端の
彼らが何か思い出してるうちに
わたしもなにか想いだせるように、
泣かないように目を瞑りながら唄いつづけた。