第123期 #2

年賀状の作り方

 ガシュガシュガシュガッシュ
「ヒロミ、もう年賀状書いたか?」
 炬燵に座る妹に、俺は声をかけた。
「んー、まだ。お兄ちゃんは?」
「俺もまだだ」
 ガシュガシュガシュ
「まあ年賀状の事はいいんだ。それより今、兄ちゃんが言いたいのはな」
「なに?」
 ガシュガシュガシュ
「このお鍋が嬉しい季節になんだってお前は、カキ氷なんて作ってるんだってことだ!」
「え? 食べたかったから」
 俺はありったけの理不尽を叫んだ。妹の返答はにべもなかった。出来上がったばかりの白を緑に染める彼女に、躊躇というものは微塵もなかった。
「今は冬だ!」
「その考え方古いよ。今は炬燵でアイスが常識なの」
「炬燵の上でガシュガシュかき氷作るほどは今の常識もぶっとんでねえよ!」
「お兄ちゃんはイチゴでいい?」
 いつの間にかカキ氷をもう一つ作り上げて、ヒロミが聞いてきた。これに俺は即答した。
「ああ。カキ氷はイチゴだ。他のフレイバーは言語道断だ」
「そーいうことばっか言ってるから彼女いないんだよ」
「か、関係ないだろ!? お前こそ、夏の主役を冬眠から叩き起こすなんて悪魔の所業をする女、彼氏できねーぞ!」
「そんなことないもん。いつかこのカキ氷の上に、ツリーの上の星みたいにキラキラの指輪をのっけて、メリークリスマスって言ってくれる人と出会う確信があるもん」
「さむ! いろんな意味で!」
「ひど! 乙女の夢を否定するなんて、聖夜にバチがあたるよ!」
「正直者にバチはあたんねーよ」
「配慮に欠ける人間に慈悲があたえられると思ってんの? そんなことよりさ、年賀状ほんとどうしようかな」
「そんなに悩むことか? ただの挨拶状だろ」
 さらりと痛烈なことを言われた気がしたが、とりあえずスルーする。ヒロミは眉根を寄せて年賀状について悩み始めた。
「もっと、こう、インパクトが欲しいの」
 インパクト。そんなのヒロミの季節感クラッシュで十分だ。年始の挨拶にまで衝撃を求めて一体何をどうしたいんだ。そう考えて、俺はふと思い当たった。
「コレ、写真とって年賀状にしろよ」
 炬燵の上のカキ氷機と涼しげなガラス容器に盛られたカキ氷。衝撃は俺が保障してやる。
「えー? インパクトあるかなあ」
「ある。間違いなく」
 少々納得いかないながらも一応デジカメを取りに行った妹を見送って、イチゴのカキ氷を食べながら。
「さむ……」
 もしもヒロミの理想の男が現れたら、全力で関わらないようにしようと誓った。



Copyright © 2012 末真 / 編集: 短編