第123期 #1
彼は窓もドアもないぽつぽつと散らかった部屋で目覚めた。
よう、やっと起きたか。傍らの猫が厭らしく嗤いながら言った。
「とは言ってもこれはお気楽長編小説ってわけにゃあいかねえ、しがない物書きの1000文字小説さ。アンタはそんな下らない物語の結の為に部屋に閉じ込められたんでさあ、同情するぜ」
猫はニヤニヤと笑んだ表情に悦を交えながら流暢に話した。
「すると俺がここから脱出することは」
「ああ、それなんだがなあ」
くいくいと、猫が顎で部屋の中央を示す。スイッチが二つ寄り添って落ちていた。
「あれは片方はアンタの愛する妻と子供を、片方はアンタを殺すスイッチさあ、まあ大体読めてただろう?好きな方押してくれや、どっちにしろわっちにゃ関係ねえ」
「…雌か」
「へえ、何の話」
無関心にそっぽを向く猫の横を通り過ぎて彼はスイッチを両手に構えた。
「最期に言いたいことはあるかい」
「だから俺は猫が嫌いなんだよ」
「そりゃあお門違いってもんさ」
「糞ったれが」
彼は二つのスイッチを同時に押した。