第123期 #3

終わりの始まり

 朝起きてカーテンを開けると雨が降っていた。インターネットを見ると、とうとう終わりの始まりだよって書いてあった。
 今度はベランダに出て外を眺めた。ビルやアスファルトや灰色の世界が見えた。8時だったけど誰も道を歩いていなかった。たまたま人がいなかっただけかもしれないけど、世界の終わりには誰も外に出ようとなんかしないのかもしれないな、と思った。
 ふだんは、社会生活を送るためには、朝には外に出なければならなかったが、終わりなのだからベッドに戻って読みさしの本を開いた。冬の日で、雨も降っていたから、押入れから布団をもう1枚出して余分に掛けた。あたたかかった。
 数ページ読んだところで、携帯の電源を切った。最期の日を誰かに邪魔されたくなかった。でもまた数ページ読んだところで、自分が暴力を振るってしまったことで別れる原因を作ってしまった昔の恋人にだけは、もう一度会いたいなと思った。でも彼女はなんで電話してきたの? とか、家に行けば行ったで、なんで来たの? とか言うに違いない。別れてから数年、何度か電話したけど、たいていそんな回答が待っていた。それに、電話は混線してまずつながらないだろう。なにしろ世界の終わりが始まっているのだからね。

 離れて暮らす家族のことを思った。どうやって、終わりを過ごしているんだろうか。想像してみた。でも最近の家族の生活のことはよく知らなかったので、すぐ止めた。別に妄想で時間を埋めたいわけじゃなかったから。
 でも、おばあちゃんは元気だろうか。また、世界の終わりということであわてふためいているのじゃないだろうか。すこし心配だったけど、こういう時だけ心配するのも虫が好い話だなと思ってすぐ頭の中から打ち消した。
 お腹が空いたので貰いもののうどんを茹でた。ガスはまだつながっていた。もしかしたら世界の終わりを全世界が知ってるってわけじゃなさそうなんだな、と思った。冷凍しておいたチクワとアブラゲをベースに味を作った。まあ、そこそこ美味しかった。

 夜になって、いよいよ最期が来るんだなと思った時に、デートに誘ったある女の子が、急に明日友達の子供の子守りを頼まれちゃってと言われて断られたのを思い出した。たぶんウソなんだと思っている。子守りって言うと子供好きだって思われるし女の子同士のネットワークっぽいし嫌がられにくいからたぶん、そう言った。
 嫌な気持ちを胸に抱えながら眠った。



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