第122期 #13

地面の無い僕達は達観する

 あんた達観してんのね。とおばさんはいう。
 おばさんにおばさんというと怒るんだけど、でも僕達小学生からしたら20過ぎたらおばさんです。女の子達はいち早く世の中を転がすために30過ぎの女の人にも「おねえさん」という呼称を使うけど、裏では「ばばあ」って呼んでるから使い分けのできない僕達男は、女ってこええよなあと裏で言い合う。

 僕のお母さんは働くことをしたくない人で、理屈は分からないけどお金だけもらってる。ショウシカにコウケンする立派な仕事なのよ、って笑いながら言う。おばさんも「ご立派よねえ、姉さんは」と笑いながら言う。おばさんはコウケンしない人だからね、とお母さんが後で僕にこっそり言う、その顔を僕は好きじゃない。 
 これはお母さんと僕だけの秘密だけど、今いるお父さんのほかにもお父さんは3人いて、しかも僕のお父さんは4人のうちの誰でもない。だから4人のお父さんの誰もが僕を好きじゃなくても、僕はあまり気にならない。
 
 僕の友達のレオグランドナイトはそんな名前なのにお父さんもお母さんも日本人だから、なんでそんな名前になったのか分からない。レオグランドナイトは難しい漢字なので、未だに誰も名前をちゃんと書けないし、レオグランドナイトは名前を呼ばれるたびにちょっと顔が暗くなる。それでレオグランドナイトを小倉と呼んでいたら、いつの間にか「三組の小倉」という怪談になってしまった。小倉の苗字は高橋だしわけわかんねーよな、と僕達は言い合った。

 僕は達観しているとおばさんはいうけれど、姉はあんたまだ達観するには早いわよ、という。姉は中学を卒業したら家を出て親戚の紹介で働くらしい。でも僕には高校までは行きなさいよできたら大学もねお金は私が出すから、という。そういうときの姉の表情は、お母さんよりも年上の人に見える。姉はきっと達観してしまったんだ、そう思うと僕は寂しくなる。
 だから、お母さんが眠っているとき、その手で頭を撫でて欲しいなぁなんて思って胸がきゅっとなるような僕は、たぶん全然達観していない。

 そんな話を小倉にしていたら、なぜか小倉が僕の頭を撫でていた。でも僕は小倉に頭を撫でて欲しかったわけではないし、それに急に鼻の頭が痛くなったので、うるせーレオグランドこのやろーっていって特に意味もなく小倉を叩いた。でも小倉は反撃もせずに静かに笑っていて、ああこいつ達観しちゃったと思って僕は焦る。



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