第122期 #14
著名な作家であるエヌ氏は、辛口の批評家としても名を馳せていた。
エヌ氏はある人気テレビ番組内で、毎週発売される書籍から話題作をピックアップして紹介するコーナーを任されている。けれども、褒め称えたことなどは一度もなく、常に痛烈な批判に晒すのである。著名なエヌ氏の批評は、そのまま売り上げにも響いてくるものだから、新作を書き上げた作家たちはエヌ氏のに取り上げられないよう戦々恐々とするばかりであった。
今週は、ある作家の新作が槍玉に上げられる予定だ。彼の前作は100万部を突破し、映画化までされた大ベストセラーであった。前作のプレッシャーをものともせず、渾身の力を込めて書き上げた力作なだけに、このままこけてしまってはたまったものではない。
意を決した彼はエヌ氏の元へ向かった。
「あなたは、なぜ僕たちの作品を批判ばかりするのですか? どんな作品でも、必ず良いところがあるのではないでしょうか」
「うむ。おっしゃるとおり。けれども、あなたたちはワタシにとっては、みんなライバル。売れてもらっては困るのです。あなたもワタシの立場になればきっとわかりますよ」