第117期 #5

インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア

 そうだよ、ほんとに吸血鬼だよ。醤油顔の小男じゃ説得力ねぇってか。俺の背は低くねぇんだよ。ここ百年で俺以外がでかくなったんだよ。ああ、百年なんてとっくだよ。俺もう四百年以上生きてるから。平戸で商売やっててな、南蛮人に噛まれたんだよ。珍しい体験か。ここだけの話だぜ。日本で最初にラーメン食ったのは水戸黄門って言われてるだろ。あれな、ホントは、俺。もちろんラーメンなんてねぇよ。出島ができた頃かな、ヒマだから料理してたわけよ。いろいろやったよ。その中でな、豚の骨から出汁とって醤油で味整えて、小麦で作った麺を入れるっていう料理を生み出してな。そう、最初からとんこつラーメン。嘘じゃねぇよ。辿り着くまで五年かかったんだからな。五年もだぞ。え、四百年のうち五年……。あのな、寿命がいくつだろうが、五年でも一秒でもかけがえのねぇ時間なんだよ。その時やったこと、考えたこと、全部血肉になるんだから。あ、今いいこと言ったよな俺。ん、豚ならたくさんいたよ。そう、外人向け。で、日本人も豚食うようになってからまた作ってみたわけだ。そしたらみるみる流行ってよう。当時博多にいたから。ああそうだよ、人生ほとんど長崎だよ。むしろ平戸からもあんま動いてねぇよ。三百年かけて、佐賀県横断しただけだよ。ほら当時なんて徒歩の時代だから。うん、俺は飛べない。文句あっかよ。あのなぁ、日本で吸血鬼やるの大変なんだぜ。西洋建築が入って来る前だとよ、旅しようと思ってもさ、完全に日光遮断できる建物が毎日見つかるとは限らねぇわけよ。棺桶背負って歩くわけにもいかねぇし。三百年で九州から出られもしなかったけどまあ上々だよ。あー、鉄道できてから一日で東京まで来た時はさすがに馬鹿馬鹿しくはなったよ。そう、俺にとっては最初から「東京」なんだよ。江戸時代全部生きたくせにな。ちょっとウケるべ。それから全国回って、ここ何十年かは東京だ。外に出る必要もほとんどねぇし、夜だけ店開けてても儲かるしな。ニンニク使わねぇから女性客に好評だ。ああ、案外あっさり長崎弁は抜けたな。だから最近イングリッシュ勉強してんだよ。あん、血なんか吸わねぇよ。捕まっちまうじゃねぇか。豚の血は飲むけどな。なんだよ、ラーメン屋の小さいおじさん鬼って。座り悪すぎるだろ。いいんだよ吸血鬼で。なんだいその顔は。吸血鬼らしさ発揮すんぞコラ。あ、いや、すいません。警察は勘弁してください。



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