第117期 #4

Three-way deadlock

 ある男が街でクスリを売っていた。彼はボスからクスリを仕入れ、売りさばいていたが、そのアガリを毎回おさめなければならず、彼はボスのシマをいつか奪って自分のものにしたいと考えていたが、ボスは滅多に姿を見せず、彼は一度も直接あったことがなかった。
 ある日、彼はボスに娘がいることを知る。彼はその娘を誘拐し、身代金と交換すると偽ってボスをおびき出し殺害することを思いつく。しかしボスと同様に、情報を集めようと試みたが、何の手がかりも得られなかった。
 また別のある日、男がバーで酒を飲んでいると、若い女に話しかけられた。悪い気もしなかったので、男はしばらくその女と話していたが、その会話の中で男はその女がボスの娘であることに気付き、また彼女が父親を憎んでいることも知った。彼はすぐには誘拐せず、彼女を味方につけることにした。
 何回か会う内に、彼女は男を好きになった。そして彼は計画を彼女に打ち明ける。彼女は賛成し、さっそく父親に電話をかけた。彼は取引場所を指定し電話をきった。

 取引場所にボスは鞄を持って現れた。男は拳銃を抜き出すとボスに銃口を向けた。
「俺が欲しいのは身代金じゃない、あんたのシマと命だ」
と彼が言うと、ボスは鞄を男の方に投げ、拳銃を抜き、彼に向けながら言った。
「私が死ねば、クスリの入手ルートは永遠にわからないだろうな」
と彼が言うと、娘は拳銃を抜き、自分の父親に向けながら言った。
「全部喋るか、ここで死ぬかよ」
と彼女が言うと、男は拳銃を娘に向け直し言った。
「早く言え、さもないと娘が死ぬぞ」

 ボスは娘が男を愛してることに気付き、もし彼を撃てば、娘に撃たれるかもしれないので、撃つことが出来なかった。男はボスを撃てば、情報は手に入らないし、娘を撃てば、直ちにボスに撃たれるので、どちらも撃つことが出来なかった。娘は男に銃口を向けられ、父親からも何の心配もかけられていないことで、どちらとも自分を愛していないことに気付き、もし父親を撃てば、怒った男に撃たれるかもしれないので、やはり撃つことができなかった。

 膠着状態が続いていた。しかし突然鞄から音が鳴りだし、激しい閃光があたりを包んだ。スタングレネードだった。銃声が二発聞こえた。

 「完全な三すくみではなかったようだな」
と言いながらボスは鞄を拾い、娘が撃たれて死んでいることに気付いたが、彼にとってはどうでもいいことだった。



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