第117期 #6

ボタン

 自動販売機にコインを入れてボタンを押すと、ゴトンといって温かいコーヒーが出てきた。
 手に取った缶をポケットに入れた。ポケットがブルルと振動した。ケータイがバイヴっていた。友人の雄介からのメールだった。
 これからビリヤードをしないかと雄介は僕を誘ってきた。僕は素っ気なく「しない」とだけ打って返信した。
 コンビニへ行って雑誌を買うことにした。大学の試験勉強も疲れる。目当ての雑誌を手に取るとレジへ向かった。
 財布を開いてみると小銭が足りない。お札は1万円札しかなかった。
「細かいのがなくてごめんなさい」と言おうか迷ったけど、やめてケータイをレジに当てて清算を済ませた。
 家に帰り、2階の自分の部屋に戻ってパソコンを開いた。メールが1通届いていた。アメリカに行っていた絵里からのメールだった。今こっちへ帰ってきたらしい。これから橋で会わないかと言ってきた。
 僕は「今行く」とだけ打ち込むと、雑誌の入ったコンビニ袋をベッドの上に放り投げ、急いで階段を駆け下りて出て行った。
 橋には絵里がいた。彼女と目が合い、僕達は向かい合った。アメリカになんて行ってきて、太って帰ってくるんじゃないかと心配していたけれど、変わりない彼女が居た。メールの文面から感じられたように、彼女は昔から何一つ変わっていなかった。
 成人式にも来なかったよな――。高校を卒業して以来、3年ぶりの再会だった。
 僕はこの日をひたすら待っていた。今まで伝えられなかった3年分の思いを、今彼女に伝えようと思った。
 僕は、人差し指で軽く彼女の鼻を押した。彼女は驚いて、そして頬を赤くして、うんと頷いた。
 僕達は寄り添ってゆっくり歩きながら家に帰った。家にたどり着くまで、僕達はお互いの小指を結び合わせていた。



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