第10期 #23

手術

「父を返して下さい。」
痛い程のまっすぐな視線に高野は視線をそらし、体を反らした。綺麗な海老反りは洋子を余計にいらつかせたが、下の桜海老は洋子を慰めた。
「海老は止めて下さいよ。それに手術は成功するとおっしゃったじゃないですか?」

名医と言われた高野の腕なら失敗は考えられないことであった。
手術の前日、高野には英検3級の面接があった。日本では千昌夫の次にパツキン大好きっ子と自負する高野には、生のパツキン女性から発せられる言葉のアルペジオは刺激が強かった。
そして面接の最中に3回も達してしまった。まさに麺達である。
「看護婦さんに聞きました。先生の手術には落ち度がなかったと。でも・・・。」

イボ痔の手術のはずだった。高野もイボをとったつもりだった。まさか患者が仰向けになっているとは思いもしなかった。
自分は不器用なんで超能力や催眠術は信じられないんですと言って麻酔を拒否し、手術直前に寝返りをうった洋子の父親のうっかり八兵衛であった。

「父は麻酔から目がさめたらガムテープで自分の体毛をむしりながら「マイドリーム。」と泣きながら叫んでました。父を・・・父さんを返してください」
高野は自分包茎の甘栗をむいちゃって腹をくくった。例えどんな理由であれ父娘だけの大切な家族を高野は崩壊してしまったのだ。医者としては誠意を見せるしかない。
高野は洋子の肩をやさしく抱いた。
「洋子ちゃん。しってるかい?稲荷神社の賽銭には税金がかからないんだ。無税なんだよ。だから父さんのお稲荷様は無料で処理してもらうよ」
洋子は泣き崩れた。洋子に新しい母親をあげることが高野の精一杯の誠意であった。



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