第10期 #22
少年は自由だった。
淡いエメラルド・ブルーの海の中から、空の底を眺めた。
空の底と、海の表面にあるわずかな隙間では、一瞬と絶えることなく虹が生み出され、そして消えていった。
人を見慣れていないイルカが、まるで子犬がじゃれつくように少年に近づいてくる。
名も知らぬ熱帯の魚たちが、少年の手から直接えさをついばむ。
少年はイルカたちと軽やかなステップでダンスを踊りながら、伝説に出てくる楽園とはきっとこのような場所に違いないと思った。
小一時間ほど海の中を漂っていただろうか、やがて泳ぎ疲れた少年は、イルカたちに別れを告げ、泳ぐことを止めた。
少年は自由だった。
望みさえすれば空を飛ぶこともできた。
気が向けば下界を遥かに山の頂きに望むこともできた。
すべては少年の望むままだった。
次にどこに行こうかと少年は考えた。
遥か未来社会へ旅行に行こうか、それとも太古の昔へと恐竜見物にでも行こうか。
少しの間考えていたけれど、やがて少年は宝物でも見つけたように顔を輝かせた。
そうだ、宇宙へ行こう。
宇宙は、エメラルド・ブルーの海に負けず劣らず美しい。
少年は、体の中で唯一自由に動かせる首を傾け、あごの先にとり取り付けてあるマニュピレイターを器用に操作すると、病室の一面を占めるスクリーンに、漆黒の大宇宙を浮かび上がらせた。