ここのところの私の感想の原動力は、面白かったありがとうなどといった感謝などではなくて、むしろ負の感情であるらしい。そうでなければ、もう少し読み込んでから感想を書きそうなものだ。やっつけ仕事なのだ。
#1 迫りくる恐怖
先月と比べて、破綻が起きていない分、進歩しているのだと思う。しかしまだ及第点はつけられない。物語の原案にしか見えないからである。もっと描写を増やしなさい。そして磨きなさい。退屈で聴覚が発達するなどという表現は、よろしくない。
#2 ケセランパサラン
いつだ、と過去の日を指定された文の後に現在進行形の文があることに混乱した。
それを無視してみると、構成がつながっている。何でもないことなのだが、ひとつの心境が描けているのかもしれない。
#3 ラブストーリーは突然に
野球とサッカーと、ちょっとばかりプロレスを混ぜなくても良いだろうと思う。それから、ネタをきっかけに一足飛びに愛になる必要もないだろうと思う。
ネタには笑った。得意げに即答しなかったところが、どう言えば良いのかわからないがどこかしら良いと思った。
#4 鯖
これは作者が知っている風景に基づくものなのだろうか。電信塔の役目を持つ寺院が俗世との交流が薄いということに、私は疑問を覚えた。そもそも寺院は俗世との関わりなしには存在できないし、ネット以前に物流が発達している時勢にそこまでものがないことは考えにくいし、電信塔があるくらいならば通信網の一端くらいはあるはずだろう。
それから、この不思議な終わり方は何なのだろうか。坊主のその後があるのに寺院のその後がまったくないのは、時空が歪んでしまっているのではないだろうか。
#5 イフリート
前期の感想をひとつでも読んだのかと問いたい。進歩どころか退化してはいないだろうか。
たったひとつ、物語のかけらが、良質なかけらがあると思うので、先に言っておく。「一つ放火するごとに、僕は自己実現を果たし、アイデンティティーを確立していく。もう、随分、放火によって僕はしっかりとした人間になった」。放火によって確立された人間性とは何なのだろうかと思うと非常に面白い一文なのだが、偶然浮かんだ言葉に過ぎないのか、それはまったく描かれていない。
以下、整理して書くことさえもうっとうしいので、羅列とする。最初の「ここで告白したいのだが」は無用。「ハッハッハ」も無用。「他人の人生を燃やして、輝く炎が好きなのだ」と「家全体を巨大な炎が包み〜それ以降のことなどどうでもいいのだ」などが矛盾している。放火の愉快犯に消防車のサイレンは悲痛に聞こえるとは思えない。「僕がその家のゴミ置き場に小さな悪魔を放し〜その家とそこに住む奴らを食い尽くしているような感じだ」と「そこまで傍若無人に〜人間を蹂躙していく」の表現が合っていない。「悪魔」なのか「召喚獣」なのかと問うても良いだろうか。
まあそんなことはどうでも良い。この作品にはガソリン臭を知っているのかと叩きつけるだけで十二分だろう。
#6 マルボロ女
最後にたった一文で違う場面でまとめたのは、上手いと思う。
これは駄目だと切り捨てるべきでない感性なのだが、私のわからない感性で描かれている。「でもあたしたちには共通言語がない。それだけ」、共通言語とは何かもよくはわからないのだが、それだけ、と済ませられることなのかと私などは思ってしまう。「黙れ、黙れ、黙れ、煩い、汚らわしい」の最後もその感性がほとばしったものだと思った。
しかし、博から離れた後でタバコを吸った後に「博から離れると極端に減煙するのだ」と言うのは、実際にそうだとしても物語としてはどうだろう。
#7 万の灯りの中で
京都を舞台とする短編小説集を目指すのであればそれは良いことだと思う、という感想は、本作が前期の『京都』と無関係という前提の上にある。
書き足せる気がしないのだが、今期もまた雰囲気だけ。淳はどう優しいのだろうか。彩の最後の台詞の「ココから離れられない」のココとは場所、時間、心境のどれを指しているのか。肝要すら読み取れないのである。
#8 私の無くした名前と愛のしるし
このような文字化けは初めて見たのでわからないが、携帯電話で絵文字など使っていないだろうか。
最後の場面で祖父が主人公の手の中で静かになったことが何によることなのかがよくわからないし、親の愛のしるしである名前だけで世間に胸を張れる心情もわからない。しかし何よりわからないのは、この祖父が何者かということ。
#9 丘
ひとつの世界を描けていると思うのだが、ここから何を思えば良いのかはわからない。
書きようのないことと思うのだが、なぜ忌み嫌われるばかりで畏怖されていない存在が「聖者」と呼ばれているのだろうか。
#10 生身のアンドロイド
落ちで決める作品は、それまでの展開を落ちから逆算していくことで作らなければならない。少なくとも、その視点で推敲しなければならない。そう思って読んでみると、甘い箇所がある。
私がそう思ったのは三箇所だった。「記憶のデジタル化。発明したのは彼自身だ」は、機械であるアダムが人間的な記憶というものを扱っていたという違和感が発生していないだろうか。「私は、研究チームのリーダーとして」は、アダムとイブの一対一の関係を壊していないだろうか。「彼のプログラムに誤りはない。それは私が証明しているではないか」は、人間であるイブが完璧な存在であるとしてしまっていないだろうか。
「賽は投げられた」の部分と「気分?難しいな」の部分は面白いと思う。
#11 An un-hungry beggar
数式らしきものはすべてある意味を持っているはずなのだが、まるで解らなかった。
この否定的な感情ばかりの場面たちがどのようなつながりを持っているのかも、まるでわからなかった。長月氏の『夕凪』よりもわからなかった、と思う。
#12 擬装☆少女 千字一時物語36
他人の作品には何だかわからないと言うのに自分の作品もそれから抜け出ていないといういつもどおりのことに、いつもどおり並べられてからかすかに気づく。
#13 「君にソウダ水を捧げたい」
良いのかなこれ、という疑問が感想の第一。あの猿の名前と内面を決めてしまったことは、非常にもったいないことだと思ったのだ。
いろいろとおかしいような気がするが、猿と古田さんの関係はやはり偽りのないものだと思うとすべてがそれで良いと思えるのは、どのような魅力なのだろうか。
#14 愛
海坂氏の、文体はある程度内容を規定する、という意見は本当なのだろうと思わせる、そんな作品が続いていると思う。この長い描写はいったい何なのだろうかと思うのだが、ひとつも削れないので読んでいて悔しいし、気色悪い人物ばかりなのはいったい何なのだろうかとも思うのだが、ひとりも切り捨てられないので読まずには置けない。
#15 外は大降りの雨だった
充足感と蟠りが並存していることに疑問を覚えたのは、私が人の気持ちを知らないからなのだろうか。それから、「今日は僕を送り出そうと二人が声を掛けてくれた」から「私は大丈夫だよ」まではドームのイベントに対して過去のことであるが、この割り込み方には時系列が混乱してしまって途惑った。
貴子よりも絵美の方が主人公に近しい存在のように見えるのだが、出発の段になってようやくその想いに気づくというのは、主人公はよほど鈍感なのだろうか。その鈍感さで「そう思うと目前の窓に、雨が一粒流れた」と言われても、と私は思ってしまった。
#16 隣人からのメッセージ
それっぽくしたかったらしいが、意味がわからない。壁を軽くたたく音が三日間であったことに対して泣いていたことが毎晩毎晩とされていることは、どういう対比なのだろうか。だいたい、隣人が引っ越してくる前に何かが解決したような気分になっているようだが、何ひとつ解決しておらず、むしろ辛さなどを思い知らされたということでは悪化してしまったのではなかったのか。その上で引っ越してきた隣人にありがとうと言うのは、狂乱だと思う。
そうか、この作品はバッドエンドだったのか。それならば今度はこの主人公に、本当に辛く苦しく虚しく悲しいことなどあるのかと問い詰めたい。
#17 ローマ
今頃気づいたのだが、ミサイルが好きだな、と思う。
前期の作品たちのパロディの要素があるのだろうか。「立て続く葬式にあくびが漏れ久しぶりに涙を流す」でわら氏の『夏』を思い出した。
ふざけた題名は、誰かに読み方を教えてもらいたい叫び。