投票候補に★をいれました。
たくさんあったので投票選ぶの悩みます。
1 エージェント・イレブン 〜アンブレラは四度咲く〜 アンデッド 972
うんこきたないなあ。
不完全燃焼感があって、まだまだ面白くなるんだろうなあと思いました。もっときれ味が出せるだろうし、もっと濃くすることができるんだろうなあと。
例えば冒頭の「修行を終えた11」の部分だって、例えば「38474日かかる修行を487日で終えた11」とするだけで、「11」の個性を表すことができるのだし、全編そういった詳細への目線がうすくて残念。
2 名付け親ゲーム 朝野十字 1000
1ばんの作品と、作品自体の狙いどころ、愉快さって部分は似ているんだけど、例えば「昼休み休憩室の隅で独りで弁当を食べてる佐橋さん」とこまやかな注釈があって奥行きが出てる。
「変なおじさんっ」など、全編に年寄り感がでていて、マイルドにちかづきがたい作品だった。
3 列車 庭野 梅 679
ああなるほどと思いつつ、いや目の前で人が泣いているのにこんな感情でいられるものかなと思いつつ、いやほんとは文庫本読んでいる人はほんとはもっといろんなこと感じているはずだとか、いろいろ想像しちゃったんだけど、それまでと言えばそれまで、というのがすなおな感想でした。
人間の感情や心理を描くのが小説だという認識はほんとうにへどが出るくらいうんざりするほどこの世からいらんと考えているのですが、だいたい、こういう考え方って、そもそもあなたと私が違う考え方を持っているって前提の、個人とか自我とかを前提にした嘘であって、じっさい大して人間って変わらんでしょう。あなたと私が違う、個性があるって、勘違いもいいとこだと思う。変わらんよ、誰もかれも人間は。だから、こういう小説は絶滅してほしい。
★4 『綺羅』 石川楡井 1000
あら投票がない。ふしぎ。おもしろいのに。作品としてきれいなのに、と思ったのですが。
どこがうまいのかと言えば、まず第一、「光」という言葉を作品独自の文脈で使用していて、一般的な「光」という言葉の持つイメージを流用しながらそれでいて、作品内部で独自の価値を持たせている。この、単純で強い筆力。けっこう書き手の精神力がいるはず。
第二、「ああ、いけない。」といったところで端的に人物の感情を書き表すところ。作品としてドライな部分を持たせようという意図もあるかもしれないが、下手な人は言い訳がましくくだくだと罪悪感を書き連ねてしまうところじゃないだろうか。この簡潔さ、そしてこの簡潔な分量で文意が通じるだろうという読者への伝達力の見極め、が書き手としての経験値じゃないかなと思った。
難を感じたのが、性欲がでちゃうのはちょっと安易な感じがした。セックスは安っぽい。快楽は教養に比例するって考えると、単に射精するって意外性がなくてつまんないなと思った。既知の領分だった。
5 仕事が憎い今日この頃 名乗るほどでも… 1000
中年になってくると、自分含めて誰彼の愚痴だとかにうんざりしてくる。ちっとも生産的じゃないじゃん、というのは若い時から思ってたことだけども、それ以上に、聞きあきたっていうのが強い。仕事がどうのとか、生産的かどうか以上に、何万回聞かされたと思ってるんだ、と思う。それが分からない人、っていうのは正直人間としての感性を信用できない。
だけれども、それでも書かざるを得ないっていうのはあるわけで、ただしこの程度じゃ飽きあき、もしくは嫌われている愚痴を相手に聞かせることはできないんじゃないのだろうか。聞き入れてくれない意見を、たとえば政治的陳情を焼身自殺で聞き入れさせるっていう手法が一方であるけれども、それに比べたらなんじゃらほい、って感じ。
6 雪 吉田佳織 906
これが小説なのか、と思うし、小説っぽいなと思うんだけど、確かにイメージの表面的な連携は、たtおえば作中の「雪イコール白イコール牛乳」なんて連鎖をうまく時系列にたくしこむのが小説なんだろうなとは思うんだけど、もっとこう深く揺り動かす言葉の連続っていうのが小説なんじゃないのかなと思う私としては、ちょっと違うかな、というのがすなおな感想。
ただでもやっぱり、うまい比喩を聞いて気持いいように、こういう作品も読んでいて面白さは感じる。ただ最低限度持つべき作品の強度って感じもするなあこういうイメージ連携は。
それから、電子レンジでホットミルクつくると、あっためられた牛乳がマグカップをあたためるので、マグカップも熱くならないですかね。
7 終了宣言 岩砂塵 992
なんかものすごい妄想を聞かされているようでぞっとした。
総理はそんなこと発表しないだろうし、最後の「なかなかおもしろいものになりそうだ。」といった感想もちっとも分からない。むりやりこじつけた感じがする。
物事を深く突き詰めないでいて無頓着でいられる人が時折のたまう、偽善的事実曲解を聞いているようで、ぞっとしたんだと思う。
それにしても平凡な世界の話が、今月は続くよなあという印象。
★8 せざく 金武宗基 888
毎月読んでいると、こっちが追いついてきたのか、むこうが速度を落としてきたのか、だんだん面白く感じてきているのは確か。高揚感がいいなと思う。書いていてたのしそうな感じ。でも高揚感はあるんだけど、言葉選びはどうしようもなくかっこわるい。この言葉選びをかっこいいと言っている人は、感性どうかしているのじゃないか、というのが正直なところ。
るるるぶさんとの比較があったけど、るるるぶさんの語感は、いわゆる普段よく使う言葉の新鮮な組み合わせ方とか繰り返しによってもたらされる、いわゆるシーケンサーを使った音楽の面白さ。金武さんのほうは、歴史政治思想臭のする非日常的な言葉を使って、さらにその言葉と音の似通った言葉をかきあつめたダジャレのうんざりする繰り返し。週刊誌くさい。
ストーリー、というか、ベースラインは、http://tanpen.jp/50/21.htmlに似ているんだと思う。
9 偽りの恋の色 もここ 790
なんか自動進行してくお話で、訳分からんと思いつつも、なんとなく分かるストーリー。
これはもうこういうテキスト自体が存在するっていうこと自体が面白くて、特に言うこともないかなあ。
つまり、こういうテキストが巷間にあふれ、これをよりどころに集う人々がいるわけで、それがひとつの潮流ってこと自体が面白いんだよなあ。
状況もよくわからないくらいの説明なのに分かっちゃう世界観って、これはなんかすごく画期的なことなんじゃないのかなと思う。
★10 ども、武者小路実篤でーす Revin 996
いちばんにばんの作品と狙っていることは同じなのかなと考えると、さいごふふっって笑ってしまったぶん、この作品のほうが面白いのだろう。こういう、随所に小ネタをはさむのは、永野のりこ先生が起源なんでしょうかね。いや、もっとながーい歴史のあるものなのかもしれません。
事件でなくて注釈によって進む話というのは、ヒモロギさんなんかを思い起こさせるのですが、ああいう偏執と小説っていうのは根本的に違うものなんじゃないのかなと思うものの、文章自体は面白いんですよね。
11 『競作』 石瀬 醒 786
ああー、そういうことかあ。と思いつつ、眩暈を感じてよろめいた人を見たことがない私は、ほんとまじでこんな人いるのかなと思います。形としてはきれいだったんじゃないのかなと思いました。
本当に人間がそうするのかはともかく、本当に人間がそうするかもしれないという反応を描くことはこすい書き手としては必要な能力だと思うのだけど、安易安易な演出が多く、あるいは無意味な描写がやっぱ多いんだよなあとぼんやりこのサイトの作品を読んでいると思います。
眩暈を起こさなくても、にらみつけるくらいの人は見たことあるのになんでそうしなかったんだろうと思います。テレビドラマだったら眩暈起こすかもしれんけど、テレビドラマじゃないし小説は。テレビドラマは女優とか、映像の強度があるからゆるされる演出があるんだと思う。
★12 裏道 さいたま わたる 1000
これも今のところ票なしなのか。
この段落と、この文章の息継ぎが、とつとつと死へ向かう際の思考を言葉として定着しているってことの書き手の上手さにあんまり称賛は集まらないのかなと思った。「ヤジロ兵衛」ってワードだって、文全体のゆきつもどりつ感を象徴しているし、象徴があればいいってもんじゃないのだけれども、ひとつ力量を示す物差しではある。
死っていう安易な題材かもしれないが、それを書き手自身の言葉で表すというのはひと際の技量だろう。
ただ、「人生はすべからく思いつき」っていうのは、すべからく=すべてって意味ではないので、なんかそうなっちゃいそうな勢いはある語感なんだけど、お気をつけを。
ちなみに長月さんの感想は映像に偏り過ぎている感がある。私は言葉寄りなんだろうけど。
13 赤い動機 近江舞子 1000
権力や世間よりも美学が優先するっていうのはちょっとふるくさいなと思う。そういう問題でもないだろういまさら。なんか、権力や世間ってものから距離をおいているからこその価値観であって、こどもっぽい。個人の感情が、個人のものだという考えや、権力が権力その物でなりたっているような勘違いは、どうかしていて、人類全体が生み出してきたものだって前提にたてば、こういうちっちゃい個人的な私小説的な、個としての生き物の感情を高めるようなイズムはなんかもう嫌だ。そういうんじゃないんだ、だからちいさなコミュニティを守るためだけに存在するケータイ小説ってのも嫌で、生き物の生き物たる部分を横断するような話のほうが有意義だよなって思う。
14 バンド わら 1000
こう、態のいい話を、表現のギミックでとりつくろった感のあるお話。こう、「ふと目を遣ると、駐輪場にギターケースを背負った崇の姿があった。」の「ふと」なんていうのは小説的文章の嘘で、ほんとに人間って「ふとした瞬間」なんてあるんだろうかと思う。
だいたい、言葉にはいいかげんなものが多い。もっと死語増やしたほうがいいんじゃあないだろうか。意味を薄めるためだけの、間をひろげるためだけの言葉が多すぎやしないか。例えば副詞。あれは、全部数量で表してやればいい。「たくさん」じゃなくて、全部100とか200の数量表現で。
人間の行為に「ふと」なんて瞬間はなくて、気が向く理由がどこかしらに必ずなにか、あるのだ。こういう小説的べんりワードの多用が気になった。
★15 ふとん幻想 彼岸堂 1000
日常から世界に飛躍する、この飛躍。飛躍のある、「左手の戦争漫画を室内に投げ、一羽の鷹の如く飛翔した」といった表現も気持がいい。
ただし途中でちょっとイカに逃げたんじゃないのかというところも感じた。もうちょっと布団に固執するか、あるいはさらにイメージをくりひろげるかしたらいいんじゃないのかなと思った。
あとは色と匂いがもうちょっと足しこまれていればなと思う。五感がたりない。それと「口の中が唾液まみれだ。」も気になるか。もともと唾液まみれでない口の中は想像しにくい。
16 白い雨 謙悟 999
なんかもっさりしているのう。http://tanpen.jp/83/8.htmlのあたりをかすめているような気がするんだけど、とにかくもっさりしている。正直何が言いたいのかいらっときた。
表現的にはイメージを丁寧につないでいるんだけど、ただそれを必死でやっているようで、軽さがなくておもったるい。
手段が目的になってるのかな。一生懸命感もおもったるいのかも。
17 夢。 仙棠青 1000
不用意な副詞は嫌だって。「おたおたと不器用にたたらを踏むのが」おたおたしないたたらの踏み方があるのか。「空々しく人工的なもの」空々しくない人工的なものがあるのか。
やっぱり私も長月さんと同じく、夢十夜を思い起こしました。全体にくだくだしく、なにかこう、一味足りないな奥行きを感じないなと思うと、それはたぶん、人物と周囲の動きだけで構成されていて、時間的、考察的な描写がないからなんじゃないのかなと。
小説としてのふくよかさは、単に語彙の問題じゃなくて、描写の方向性、言葉がつかみ取る世界の広さってところにもあると思う。
★18 水面下の夢 壱倉柊 1000
うまいな。
長月さんの言う「こっぱずかしい」感じは私も受けていて、それはたぶん「俺はもはや自分が魚なのか人間なのかわからなくなった。」などと言いきってしまう浸った感じで、こういう感じは若さなのか変わらないその人の人間性なのか、分からないが、ここで「ばかげている」って客観性があればこっぱずかしさは多少軽減されたのではないのかなと思う。
とはいえ上手い。私が言う上手さは、「釣り」「海」「魚」というイメージの連携。連携がうますぎてこっぱずかしさもはらんでしまったのがもろ刃の剣だけれども。
あとは会話。短い。こういう短い会話を作れるのは勘所をおさえているからで、これもものすごい技量。特に「「壁、白いね」」なんていうところに上手さを感じる。会話文の全体から眺めると、ここは「白いね」でいい部分なんだが、おそらく「壁が」の主語がないと読者に分かりにくいという配慮から、主語を配置したんだと思う。あー、よくよく考えると、主語のない会話文が続く=海の中でたゆたう感覚も出ているのかな、と。
★19 閏年の僕 マーシャ・ウェイン 939
むう。これも票なしか。うまい。
四年に一度で良かったということへの解釈が変化する過程がおもしろい。そこがおもしろい。おもしろいおもしろい。うん、おもしろい。
姉のことや、恋人のことなど、書かれているのだけど、実際意味がないところもおもしろい。
こういう素朴な話を支えているのは「日々老化の一途を辿っている。多分。」「僕は誕生日を泣いて過ごすまいと心に決めた。はずだった。」という気の弱さをあらわしせしめる文章のギミックで、そういうささやかな気づかいが上手いと思う。そしてこういう細部が楽しい。
★20 ヘタなシャレは えぬじぃ 1000
これもうまいんだけど、さっきから言う私のうまいの質とはこれだけちょっと違いそう。
文章はきっちりとしているけど、今一歩の文章力で、それは単に相手に伝えることだけは正確なだけだから。でも、アイディアをエスカレートさせていく力は上手い。
というか、上手いけどだじゃれは好きじゃないんだよなあ。
音ってすごく表面的じゃない? だから、音楽的につかわれたらいいんだけど、こう、意味も伴わせようっていうのが、なんか違うんあだよなあ。あくまでだじゃれは会話の上の瞬発力がおもしろみであって、文章で表現されると強みがなくなるんじゃないのかなと思う。
★21 海辺の六助 宇加谷 研一郎 1000
いいかげんだなあ。適当すぎる。
めんどくさいけど、書けば、六助というトリックスターが両派閥をまとめて、まとめたから去って行ったという説話になるんじゃないんですかね。どうでもいいですけど。
こういうことのできる裁量というのは、こういうことをやり続けられる裁量というのは、ちょっと計り知れない強度を持ってるんじゃないのかなと思う。ある時期からの宇加谷さんはすごいなって思ってたけど、連続決勝出場続行中なのですね。
22 渚のオクラホマミキサ クマの子 1000
なんだこの生硬さは。ほんとに書きたいものを書いてるんだろうか、いわゆる手段が目的になってるのか。すっごく既視感があって、手あかのついた言い回しの連発に思える。
「快晴、海風、気の利いた休日の午後のひと時。」とか、なんかオリジナリティのかけらもない。渚っていう場所に、どんなイメージをいだいているのか分からないが、そもそも分からせられないところに問題があるんじゃないだろうか。なんか、こういう風に書けばいいんでしょ、みたいななげやり感さえ感じた。
23 脱走 euReka 988
「「すごくヘンテコな気分だね。生きてるって」」っていうのが陳腐だなあ。
確実にさいご、ゼロが来るんだろうなって思ってたら、ゼロがなくて、最後のところがゼロを象徴するのかな、って思ったんだけど、そうは読みきれとれなくて、なんだか煩悶でした。
ただ、数字が続くんだろうな、って予定調和的な進行はアイディアで、わくわくした感じはしました。いいアイディアだなあって。ただeuRekaさんも、イメージ先行で、文章で魅惑を感じさせる人ではないので、いつもそこが残念。言葉が、いつもうわっつらだと思ってるんですよねえ。
24 オレのセリフだ!! おひるねX 999
「抜き身の白刃のごとき金属バット」はないでしょう。抜き身じゃない白刃もないし、せめて、抜き身の白刃のように持った金属バット、だと思う。
なんか思いついたままを書いた感じがして、なげやりな感じもしますし、これが限界な感じもしますし、どうしようもないなという感じも。うむ。今期いちばんダメ。
25 輪 高橋唯 999
おもくるしいなあ。高橋さんはうまいと言われるんだけど、私はそう思ったことはなく、硬い感じがしていつもならない。美感の問題かもしれないけど、漢字というもので世界をとらえ過ぎていて、漢字とはつまり意味であって、平仮名とは音であって、つまり漢字は意味であるぶん読者に意味を理解させる速度が速くて、平仮名は音>漢字>意味って変換になるからちょっと遅くなる、っていうようなギミックを一切理解しようとしないしそんなもの使う必要がないと考えていらっしゃるんじゃないのか、と思うからです。「箒」と「ほうき」の意味伝達の速度や、それによる読者の生理的変化を鑑みて書いているのかな、と疑問に思うところが、うまいとは言えない理由です。
ただ、簡潔なところはうまいなあ、と思うのですが、その先として、読者の生理ってものがあると考える私としては、そこまでうまいとは思わせないのです。
あと、イメージの連携はそつなく上手だとは思います。
26 ビームズ るるるぶ☆どっぐちゃん 999
多少なりとも本人を知る私としては、やっぱりデスクトップミュージシャン、音源制作者としてのるるるぶさんの方が存在感として強く、それを前提に考えると、やはり強烈な繰り返すと、似通ったメロディないしリズムパターンが先行したメロディないしリズムパターンを追いかける、そして最後にまた最初に戻るっていうループを感じるのですよね。何度か直接言っていますが、音源制作の方が才能あります。短編1000字という範囲ならばという条件付きですが。
ぶっちゃけ作品提出のサイクルが文学フリマのタイミングと同期されているのですが、であればその時の文フリ出品作の余技でしかないのだろうなあと思う次第。