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174期 全感想

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#1 新規ドキュメント

なるほど。日記の中の時間と、現実の時間とのズレということか。とても面白い視点だと思う。しかし、できればその「ズレ」の部分をもう少し掘り下げて欲しかった。


#2 欲望のない世界

小説というより、「欲望」についての考えを書いただけの文章。ただ、この文章を読んでいると、「欲望」って何だろうなと改めて考えてしまう。文章の中では「呼吸」することに対する欲望が出てきたが、「呼吸」というのは、普段は欲望というより、当たり前の営みの一つだと思う。しかし何らかの理由で息が出来なくなると、呼吸は、「当たり前の営み」から「欲望」へと変化してしまう。つまり欲望とは、「何かが満たされない状態」によって生み出される衝動であり、同時にその何かが満たされれば消えてゆくものでもあるだろう。そう考えると、欲望を持つとされる人間や生き物というのは、何かを満たしたり空にしたりするための容器のようなものかもしれないなと思った。


#3 骸骨兄弟

あえてシンプルな構成と文章にするという工夫を行っているように見える。あるいは前回の三浦さんの小説『騎士団長殺し』(http://tanpen.jp/173/8.html)のように物事を記号化(http://tanpen.jp/vote/173/pre/8.html)しているということになるか。
そういう、構成や文章の工夫は評価できるが、おかしな文章が所々にあるし、終わり方も安易な気がする。


#4 雨の又三郎

(予選の感想と同じです)
「雨と日照り」じゃなく、「光と闇」や「右と左」とかでも、似たような内容や流れで物語が書けるんじゃないかと思う。つまり、「雨」の特異性のようなものがあまりないから、物語に説得力が生まれないということ。もちろん、完璧な特異性を表現するのは不可能だと思うが、本作については、それが不足している気がする。
しかし、中盤の、女とのやりとりは面白かったし、「むこうもむこうで晴れることを条件にSEXしたりしているに違いない」のところで笑ってしまった。


#5 カシスオレンジ

釣り合わない相手と付き合うより、自分に合った相手と付き合うほうが幸せということが言いたいのは理解できる。しかし、新しい相手を見つけてからは、何の葛藤もなく二人のやり取りが進んでいくだけなので、最後まで読むと、それでいいのかなという気分になってしまう。「甘々」なだけで本当にいいのかなと。


#6 結石

(予選の感想と同じです)
尿路結石の痛みを文章で表現してみたということだろうか。たしかに、何かの痛みをこらえているときは、その痛みに関することだけでなく、「モノクロームのフランス映画」のように全く関係ないことが気になってしまうということもあるなと思うし、そういう痛みに耐えるあまりに出てくる、変な衝動みたいなものを表現しようとした点は評価できる。
でも、完成度が今一つだし、描写やイメージを書くだけでなく、何か展開があってもよかったのではないかと思う。


#7 折り返し地点

前半は、文章や構成がおかしいと思える箇所が何か所かあるせいか、何の話なのかよく分からないという印象。そして後半部分で、ようやく逢引(不倫?)の話だということが分かる。
ただ、主人公の情熱的な感情を表現した部分と、「来月息子の卒業式なの」といった極めて現実的な部分の落差が面白いと思う。


#8 明恵は紺碧の空の彼方へ

かなり強引ではあるが、日本の総理大臣が、自分の妻や、例の小学校建設問題ついて語るという内容になっており、一応、小説の体はなしていると思う。
面白いなと思うのは、語り手である総理大臣が、自分のことを否定的に、あるいは皮肉をこめて語っているところ。もちろん、この語りは作者の意見をそのまま反映しているだけだろうし、実際にはありえない語り方だと思うが、その「ありえなさ」が、かえって面白い気がする。
あと、もう少し文章をちゃんと書くようにしたほうがいい。


#9 帰る場所

(予選の感想と同じです)
すでに両親が他界していない、「帰る場所」がないという孤独感が、地元に残された「家」に投影されているということになるのか。しかし主人公の孤独が投影されたその「家」を、いくら物理的に無くしたところで、孤独が解消されるわけではない。この作品ではそういう、孤独から逃げたり向き合ったりする人間の気持ちを、作者なりによく表現していると思う。良作。


#10 雨が降っていたから

『あなたを別人にします』という奇妙なサービスの発想は面白いし、落ちがどうなるのか期待させるような内容になっていると思う。しかしその落ちに関しては、いまひとついうか、いいアイデアが思いつかなかったのかなという印象。

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