第83期 #16

コント「ブランコと僕」

 森を抜けた先にある丘はひらけていて、そのてっぺんにぽつんと大きな木が立っている。そこが僕たちの秘密基地だ。枝にぶら下がったブランコは丘むこうから吹いてくる風にしじゅう揺らされていて、森の暗さに慣れた目にぼやけて映るコントラストが幻想的に見えたこともあった。
 僕たちはそこで遊んでいたんだ。
 サンドイッチの入ったバスケットは開いたまま地面に置きっぱなしで、風に吹かれてことことと音を立てていた。


「たあああ!」
 浜田はたっぷりと助走をつけてから飛び上がり、枝に吊られた松本めがけ両足を揃えてロケットのように突っ込んだ。その衝撃にいくばくかの木の葉が散る。東野は腹を抱えて笑い転げ、板尾はブランコをこぎながら目を剥いてその様子を焼き付けていた。僕は早く家に帰りたかった。  
「あはは、しぶてえ」
「はさみうちしようぜ」
 そう言って二人は対峙するように向かい合い、息を合わせて飛び上がった。ぐう、と前後からの衝撃に声が漏れ、二人はげらげらと笑い転げる。板尾は髪と体を大きく揺らしてブランコを高くこぎ上げていた。
 縄は木を一周して瘤に留まり、松本は首と縄の間に指を挟んでなんとかしのいでいた。松本の下の土はまだ黒く湿っていて、耳を塞いでも悲痛な鳴き声が聞こえてくるような気がした。この前は野良犬だった。
 浜田が松本のスカートを引いて縄を首に食い込ませる。腰骨に引っ掛かったスカートがやがてするりと外れると、板尾はブランコから飛び降りて松本の前に陣取った。松本は見下すような冷ややかな視線を向け、僕は思わず目をそらした。浜田は続けてブラウスのボタンに指をかける。露わになった松本の腹に東野は、拾った小枝をひゅんひゅんしならせて打ち付けた。激痛に身をよじらせ縄が首に鋭く食い込む。小刻みに痙攣する腹。松本は狂ったように暴れて縄に爪を立てた。
「よだれたらしてやがるぜ」
「きたねえ、あはは」
 松本の白くてきめの細やかな肌は拳と鞭とでみるみる赤く染め上げられていく。板尾は股間を見つめていた。
 やがて松本はびくんと数度身体を痙攣させて動かなくなった。股を尿がつたう。浜田が松本をブランコのように押すと、したたる尿は弧を描いて板尾の顔を縦に濡らした。それでもなお板尾は股間を見つめていた。松本はゆらゆらと揺れながら光を失った瞳で中空を見つめ、落ちた影は色づいて細長く伸びた。
 もうすぐ日が暮れる。僕は早く家に帰りたかった。



Copyright © 2009 高橋唯 / 編集: 短編