第73期 #13

暖かな日の光

暖かな日の光が緑萌える草原を鮮やかに照らしていた。穏やかに吹く風が草原を撫でてゆく。
一人の少女が草原で眠っていた。
穏やかな風が少女の頬を撫で、少女はゆっくりと瞼を開いた。
少女はなぜ自分がここにいるのか、理解できなかった。
少女は上半身を起こし、周囲を見渡した。
ただ一面の草原。
 
少女は立ち上がり歩み始めた。
ただひたすらの草原。
一筋、草原が途切れ、地が露わになった場所に出た。
道のようだ。
どちらを見てもどこまでも続いていた。
少女は道を歩き始めた。
ただひたすらの土の道。
 
カッポカッポカッポ、ガラガラガラ。
後ろから音が聞こえ、少女は振り返った。
荷馬車だ。
荷馬車は少女の前で止まった。
中年の男が手綱を握っている。
 
「疲れただろう。町まで乗せていくよ」
男は笑って言った。
 
少女は荷馬車に乗り町に着いた。
 
笛、太鼓、琴、祭囃子の音が聞こえる。
 
「今日は祭りだよ。楽しんでいきな」
男は手綱を振り、荷馬車と共に去った。

少女は歩き始めた。
石畳の道を。
両脇に様々な店が並んでいる。
みな同様に赤い提灯を軒先に吊るしている。
祭りだからだ。
 
「嬢ちゃん、ひとつどうだい?」
そういって、おじさんがたこ焼きをくれた。
「ラムネもあげるね」
おばさんがそういってラムネをあけ、渡してくれた。
 
座って、たこ焼きを食べ、ラムネを飲んだ。
 
少し残ったラムネのビンだけを持ち、少女はまた歩き始めた。
大きな門があった。
門をくぐると長い階段があった。
少女は階段を登り始めた。
頂上には更に大きな門があった。
振り返った。
夕陽が少女の顔を照らす。
目を細め、町を見下ろす。
町が赤く染められている。
草原が赤く染められている。
カラカラとラムネの中のビー玉が音を立てた。

「美しいかい?」

少年が門の柱の影から出てきて尋ねた。

「美しいと感じるかい?」

また尋ねた。

ラムネのビンは少女の手を離れ、地面に転がった。
少女は泣き崩れた。
泣いた。鳴いた。啼いた。ないた。

「世界は美しい」
 
少年は誰に言うわけでもなく言った。

少女はないた。
そして・・・・


「世界は美しくなんかない!こんな世界、嘘よ!私の知ってる世界は!私の世界は!醜く汚い世界よ!だから!だから!だから・・・・・こんなの・・・・・・・あんまりよ・・・」



Copyright © 2008 阿谷 織人 / 編集: 短編