第72期 #8

私の無くした名前と愛のしるし

私の名前を呼ぶしわがれた声…「恵美里こっちへ来なさい。」嫌…。「…今行くわ」私のことを祖父が呼んでいる、私の嫌いな手で私を撫でさする
私の膨らみかかった胸を括れてきた腰をそして毛の生えそろわない下腹部を…抵抗する事など私の選択には残されてなどいない…ただせめて…祖父に抱かれけがされても父がつけてくれた名があれば私は世間に胸をはることが出来るはずだった…
でも私は…知っている
まだ幼い頃祖父の夜の相手などしていないとき…私が私の名をまだほこっていたとき…
やわらかであたたかい布団の中で家に父とも母とも違うだれかの声が響いていた…祖父だった
父は静かに「おとうさん、あの子は私達の娘です、ですからそろそろ名前を…」祖父はにこやかに「名前は恵美里に決めてやったろう?`」といった私は信じたくなかった…
父も母も私の名を呼ぶたびにやるせない気持ちになっていたことだろう、自分の子にも関わらず他人のつけた名で呼ばされ
それをみていた祖父はさぞ裏でほくそ笑んだことだろう…
「私達が決めていたあの子の名はきさらと言うんです私達の1番の子ですし名前を変えさせて下さい」と必死にたのんでいた…
「きさら…?`」これが私のなまえだったの?`
今までの名前は…父と母の愛のしるしと思っていたものたちは?`

祖父はカサカサとした手で私を抱く「恵美里…えみり…エミリ…」私ちがう… それは私じゃない…「私はきさらっ恵美里じゃない違うのよ?a違う違う違う違う違う違う違うっ」
祖父が私の手の中で静かになる…私は部屋から出てホットミルクをいれて部屋にもどり祖父に渡すこれでもう何度目になるかわからない 祖父のすじばった首の感覚もホットミルクをいれるのも…



Copyright © 2008 のい / 編集: 短編