第72期 #7

万の灯りの中で

『今年も、来たね』
彩はぽつりと言った。
淳は何も言わなかった。

京都出身の彩が、「綺麗だから」という理由で連れてきた
東本願寺の大谷祖廟で行われている東大谷万灯会。
涼しい夜にお墓参りを、とはじめられたものでそれぞれの墓地に灯籠がともされている。
ほとんどにともれば、そのほの明るくもおびただしい数に静かな感動が湧き上がってくる。
本来ならば、綺麗だからという理由だけで行くのは不躾なのだ。

意外にも淳はその光景の虜になったようで、その後2回訪れ、今回で4回目になる。

「彩が連れてきてくれなかったら、知らなかったな」
今度は淳がぽつりと言った。

『やっぱり、綺麗でしょ』
2人は並んで歩いた。
手も繋いで歩いた。

どれくらいいただろうか、帰り際に淳の足が止まった。
『来年は、来るのかな?』
淳は答えない。

『知ってる、来年は来ない。』

「…あや」

『なぁに?』






長い沈黙があったあと、淳は聞こえるか聞こえないかの小さな声で。
「…さよなら」

淳は優しい。
その優しさは残酷すぎた。新しい恋人がいることも彩は知っていた。

『私はココから離れられないから…』
静かに淳を抱きしめたかったけれど、その腕は淳に触れることができなかった。



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