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第72期予選時の、#8私の無くした名前と愛のしるし(のい)への投票です(1票)。

2008年9月24日 10時51分41秒

毎夜、祖父の「夜の相手」をさせられている孫娘の話、と要約してしまうとこの小説の味を見逃してしまいそうだ。谷崎潤一郎を<ただの変態>と言い切ってしまうようなもので、みかんの皮を食べて「まずい」と吐き出すようでもある。

私はこの短篇は「祖父と孫娘の情事」という皮の部分よりも、タイトルどおりに「名前へのこだわり」にこの話の実があると思った(やや意味不明なたとえだな……)。

主人公は自分を毎夜陵辱する爺さんに対して、その行為よりも、爺さんが自分を呼んでいる名前が「恵美里」であることに強い反感をもっている。本来、自分の父親と母親は「きさら」という名前を自分につけるはずであったのに爺さんが恵美里と名づけた……とつよく自分の本当の名前にこだわっている。

この部分に、とてもつよい実感がある。肉体のやりとりなど、結局のところ、それほど重要ではないのだ、ということを、この少女はこの年齢にして悟っているのだ、と思う。自分を守るうえでの最も大切なものがとどのつまり、誇りである、ということを、この「名前にこだわる」エピソードに示されていて、私はこの部分がいいなと思った。

疑問もある。嫌いな爺さんに対して、なぜ「きさら」と呼ばれたいと思うのか? もしも私が書くならば、爺さんには「恵美里」と呼ばせることをむしろ快感に思い、無表情で毎夜爺さんに体を与えながら、その心の奥底で、自分は人間の「きさら」であり、今は肉の塊の「恵美里」となって、憐れな爺さんを慰めてやっているのだ……という展開にしていただろうと思う。

しかし、それはそれとして、物語終盤のホットミルクと爺さんのすじばった首、という描写はうまいなあと感心する。

参照用リンク: #date20080924-105141


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