第71期 #7
俺には、幽霊が見える。それも相当くっきりと。
家族も友人もほとんど信じていないが、もちろん嘘ではない。俺の部屋には白い割烹着に身を包んだ黒髪の女がずっと天井からぶら下がっているし、妹の部屋の隅には体育座りの小学3年生ぐらいの男の子がいる。
首を絞められた窒息死だったらしく、その顔は鬱血して青紫色になっている。この前妹が部屋にいない隙にCDを借りに部屋に入ったときには、その男の子の隣に首と右前脚の無い猫もいた。その猫はにゃおにゃおと鳴くこともなく、くるくると顔を洗うこともなかった。
俺は17の時、堪りかねて霊関連のことについて調べ、一人の男に行き着き、その男の家を訪ねた。その男の玄関には真っ白い顔をした血まみれの老婆が立っていた。
男に事情を話すと、男は(八月の半ばであったにも関わらず)暖かいココアを一杯俺に渡し、どこかに引っ込んだ。10分程してから男は褐色の瓶を持って現れた。霊視能力を消し去る薬のようなものらしい。男に万札を3枚渡し、礼を言ってその場を後にした。帰り際に白い顔の老婆の顔を思い出した。おそらく老婆はあの男の母親だろう。眼尻の辺りが実にそっくりだ。
俺は部屋で薬を一粒飲んでみた。すると、ぶら下がっていた女の姿がすうと透き通ったようになった。俺は目を見張った。なんだが淋しいような気がしたが、やはりこの能力のために事あるごとに一喜一憂などしていられない。俺は妹の部屋に行き、薬をもうふた粒飲んだ。体育座りの男の子と首無しの猫の姿はすうと消えてなくなった。
夕食の時、テレビや机の周りで鬱陶しかった爺さん、婆さんの二人組の幽霊がいた。俺は母、父、妹、その幽霊たちの目の前でその薬を頬張った。爺さん、婆さんの姿は煙のようにフワリと透けて、散った。母、父、妹の姿も霧が晴れたようにさっと消えて無くなった。
俺は今目の前で何が起こったのかを理解してから、気絶した。