第70期 #18

エレキ発電所映画祭

「私達は行き交う人皆旅人であるが終わりない旅が好きなのかと言われたら必ずしも好んではいないと言うと思う」
 砂漠。
「全ては一つで一つの場所に収められていて一つの鍵で開くのだけども全て開くのだけれども」
 花園。
 自由である。
 翼が西の発電所で燃えている。
 バースデーケーキ。
 リボン。
 全て引きずりながらバイクは走り続ける。
 ハッピーバースデートゥーユー。
 ビル風。
 七百キロ何も無い道。
「そう言えばあなたは何も伝えて来なかったね。ずっと一緒だったけど何も伝えて来なかった」
 港に辿り着く。砂漠港で積み込まれるのを待つ三千台のフェラーリ。
 スクリーン。
 スクリーンの中の裸の男女達はお互いの耳の中に指を差し入れる。ぶちぶちと音を立て血を滴らせながら鍵を取り出す。
 あたしの傍にはゴッホが立っている。
 皆が血だらけのまま思い思いに車に乗り込んでいく。
「あと少し行けば宇宙船街だ」
「知ってる」
 戦車が音を立ててやって来て、砲弾を放つ。
 新宿の壁に砲弾が直撃してポスター壁が崩れ落ちる。
 着替え中の少女達の姿が露わになる。
「太陽王先生の家にはクーラーが千台もあったって」
「知ってる」
 TV画面には先生の撮ったポルノ映画。裸の男女達。鍵だらけ。
「眠い」「うん」「ハッピーバースデー」「駄目よこれが表現なのよ。勉強のために観なくちゃ」「表現って何? 楽しくちゃ駄目なの?」「駄目なのよ。魂の根源からの衝動じゃなくちゃ楽しくても表現にならないのよ」「表現って何? 楽しくないのが表現なの?」


『楽しくねえよ表現を表現出来なきゃ楽しくても楽しくねえよ、さっぱり意味ねえよ』


 砕け散るポスター壁。
「だから無差別殺人を無くしたいのなら厳罰化、江戸前名物の錆ノコ刑を復活させれば済むって。でも皆スリカエが大好きだからね。スリカエとギロンが大好きだから朝までやってればって感じ」
「ねえ戦車って公道走って良いの?」
「良いの。どうせあたし達はノモンハンでは惨敗したことになっているし」
 無茶苦茶に並んでいる看板。行き止まりの一方通行。
 発電所にギターとアンプを繋ぐ。自由だ。静寂。ノイズ。
 静寂。静寂。ノイズ。静寂。砂漠に無茶苦茶に突き立っている看板。
 何か思い出せそうな気がする。
 全て忘れてしまった。
 ギターを弾く。
「そう言えばあなたには何も伝えて来なかったね。ずっと一緒だったけれどあなたには何も伝えて来なかった」
 歌を歌う。



Copyright © 2008 るるるぶ☆どっぐちゃん / 編集: 短編