第68期 #21
殺された日の話をしよう。
家族で遊園地へ出かけた。前日、姉に生意気な口をきいたと父に怒られ、十三歳の私は拗ねていた。姉の言葉だけが全面的に信用されたことに納得がいかなかった。告げ口をした姉も憎かった。父と姉の顔を見たくなかった。しかし、行かないと言えば父の機嫌をさらに損ねようと思い、暗い顔をしてただ付いていった。父は、俯いて押し黙る私を、感じが悪いと吐き捨てるよう言った。
到着する。ハリボテの街並みは、それでも美しく楽しい。色鮮やかな催しには、悲しい気持ちも多少紛れ、無理にはしゃいで母親に甘えた。父と姉には一切話しかけなかった。迷いがあった。衒いがあった。何より、萎縮していた。
父が激昂した。私の根本を否定する言葉が、衝撃波となり押し寄せる。最低の、気にくわなければ人を侮辱し貶める人間、嫌いだ、顔も見たくない、等。成人男性の罵声は暴力である。喩えるならば、四方からの殴打。耐え切れず倒れた体が、何度も何度も踏みつけられる。視界が歪み、四肢の感覚がおかしくなった。どこまでも伸びるような、あるいは見えないくらいに縮んでいくような、熱を持つような――微動だにできない。怒号に驚いた顔の人々が、ひどく遠かった。父の表情を、その服装を、今でも覚えている。よく確認したからだ。これは、一体誰なのだろう? 私を全力で痛めつけんとするのは誰か? ああ、紛れもなく自分の父親である、と。
私の幹となるべき何かが、その時死んだ。完璧に整備され、夢のように輝く街で。人々の笑い声響く春の空の下に。
父は、少しばかりやりすぎたと思ったようで、頭の冷えた後はとても優しかった。私はすっかり機嫌を直したように笑い、甘えた声を出し、もう自分には何ものもいとおしむことはできないのだと思った。
七年前を思い鳩尾が鈍く痛む。耳を塞ぎ、固く目を瞑って、できる限り小さくなる。遠い罵声が聞こえてくる。
骸から何とか目を背けようとしてきた。布を巻いて暖かくしてやれば、いつか動き出すと思いたかった。あるいは、丸ごと忘れたかったのだ。野晒しで日に焼け、劣化した布をかさかさと除く。白い骨だけ残っている。それは、鋲のように確実に死んでいる。生き返りはしない。あたりまえの事実をようやく認める。一番小さいかけらを、しばし指先で操り口に入れる。舌で弄る。奥歯で砕けない。意外に鋭利な角で喉の粘膜を痛めながら、今、私は嚥下する。