第67期 #21

盗む者と盗まれる者

ある日の夜のことだった。僕は、仕事明けで疲れた体を動かし、眠気と闘いながら、
職場から数キロ離れた4畳半の自宅アパートに帰ってきたのだが、
玄関のドアが少し開いていたのに気が付いた。

「(あれ?!)」

いつもと違う光景に、一瞬で眠気が覚めた。
出掛ける前に、ドアを閉め忘れたのかと思ったが、鍵を掛けた記憶があるし、忘れた筈はない。

「(もしかして、空き巣!?)」

なぜか、嫌な予感がした。
ドアを開けると、手前から奥に、玄関、板の間、畳の部屋がある。
中に入り真っ先に確認したのは、部屋の中のタンスや押入れや小物入れではなく、
畳部屋のタンスの陰に置いてある、テーブルの上のノートパソコンだった。

「(嘘だろ!マジかよ!!)」

散乱していた部屋の中を見回すが、どこにも無い。
無残な光景を目の前に、まずは何をしたら良いのか分からず、呆然とするしかなかった。



同じ頃、路地をフラフラ歩いていた男がいた。
両手で抱えたノートパソコンを眺めては、顔をニヤつかせている。

「(今日はラッキーな日かもしれない)」

定職にも就けず、一日を家で過ごす男は、たまに出掛けようと思い、
親に金をせびるのだが、罵倒され、その度に口論をし、家を飛び出すという行動を繰り返すばかり。

だけど、その生活に一時の終止符を打てるかもしれない。
このノートパソコンを売って金を手に入れれば、欲しい物が買えるかもしれない。
そう思うと、ニヤけてしまうのも無理は無かった。

だがその前に、まずは自宅に帰って中身を見てやれ。
そう思った男は、足早に自宅に向かっていた。

自宅に帰り、部屋に篭ると、持ってきたパソコンの電源を入れた。
――画像や動画データなど、独り言を言いながら、閲覧していく。

だが、ある画像を見て、ニヤついた顔は、驚きの表情に変わった。
複数の人が肩を組んだ画像に自分が写っている!

「(なんだこれ?)」

それを閲覧していくうちに、思い出したことがあった。

それは数年前、何気なく参加したボランティアで、親切に団体の事などを教えてくれたスタッフと、
イベント後の打ち上げに、記念写真を撮ろうと言うことになり、写したものだった。

慌てて所有者の名前を見てみると、リーダー的存在だった人の名前が書いてある。

「(やべっ!どうしよう…)」

たちまちに冷や汗と激しい動機が襲う。
だが、今更焦っても、事実は、いくら考えても消せやしない。

刻一刻と時間が過ぎていき、気が付くと、夜が明けようとしていた。



Copyright © 2008 わらがや たかひろ / 編集: 短編