第66期 #13
月明かりが窓の外から照らすーーそんな表現は終始明るいこの都会では大袈裟かもしれないが、満月の日の暗い部屋からは月の光が妙に眩しかった。デジタル式の時計を見ると、午前二時を過ぎたばかり。まだ、始めて触った彼の感触を手のひらに覚えている。記念すべき二人きりで過ごす始めての夜。少し小さくなった彼は、話しかけても何も言わなかった。
クラスメイト。少し前までの私と彼の関係はそれ以上でも以下でもなかったと思う。お互いに住む世界が違いすぎた。
常にクラスの中心で大勢の友人に囲まれる彼と、教師にさえ必要最小限の会話の時以外は存在しないかのように扱われる私。
二日に一回は告白される、整った顔立ちの彼と、鏡を見る度に激しい自己嫌悪に襲われる、不細工で醜い私。
私を女、つまり異性として接してくれた男はいただろうか。彼が持っているものを私は何も持つことは出来なくて、私が辛うじて持っている少しのものを彼は何でも持っていた。彼は完璧で、汚点が見当たらない。そんな彼に私も恋をした。一方的な片思いだ。しかし、私の願いはただ虚しく、彼の眼中に私が含まれることは無い。私は彼と話す友人を羨望の眼差しで見つめ、妬ましく思った。私は彼のことを想い続けた。
いつからか、私はいつでも彼のことを追うようになった。彼の仕草、格好、所持品、席を立つタイミング、何でも知っている。学校が終わってからも私は追い続け、彼が帰宅すると彼の家の前でずっと立っていた。幾ら彼を見つめても私が飽きることは無かった。
そして、いつしか感情が芽生えた。
彼が、欲しい。彼の何が欲しいというのだ。不意に頭をよぎった疑問に私はすぐに答えを見つけた。
全部がどうしても欲しい。
でも、どうやったら叶うだろうか。
伝えたいことがあるーー差出人を隣のクラスの可愛い女子にした手紙に誘い出され、彼は私の家の前まで来た。後ろから忍び寄って力一杯首を絞めると、彼は簡単に事切れた。彼はとても重かったが漸く欲しいものが手に入った充実感からか、気にはならなかった。彼を部屋に運ぶと日曜大工用の鋸で解体を始めた。大量に返り血を浴びたが、彼のものだと思うと心地良かった。
思案に耽るうち随分と時間が経った。袋の中から彼の頭部を取り出して抱えると、私は惚れ惚れと眺め、窓を開け放す。
もう、誰にも邪魔されはしない。
桟を乗り越えて、私と彼は宙を舞った。月明かりの照らす夜は、やはり眩しかった。