第66期 #12
天の川輝く零下10度の砂漠の夜。いつものキャラバンで、友達のラクダと一緒に寝る。名前は知らない。聞き取れなかったから、それで良いと思った。夜には一枚の毛布をかぶり、ラクダが私を後ろ足と胴の間に抱き込んでくっついて寝る。まどろみつつ私はラクダに話しかける。このラクダはなかなか詩人なのだ。
「何か話してくれよ」
(では水の話をしよう)
水?めったに飲まないじゃないか
(そう水はこの地には無い)
(この地にある水は全て天に召されたのだ)
「雲のことかい?」
(いいや)
(今も見えるだろう天にかかるあの大きな光の川を)
(あれは天上の水が凍ったものだ)
(水晶のような氷が生きとし生ける者の夢の光を反射して)
(光っている)
(そう思うと 乾いたこの地を誇りに思える)
(おかげで私達はあんなに美しい夢の光が見れる)
(ありがたいことだ)
(ありがたいことだ)
ラクダの話を聞きながら、私は眠りの世界への船を渡っていく。こんなラクダとの夜を何度過ごしただろう。最初臭いと感じた獣の匂いに今はとても安心する。彼に会いたくてキャラバンはもう趣味になった。
ある日の砂嵐のあった夜半・・・・・
彼はゆっくりと涙を流すと、心臓の音が細くなり始めた。
いつかこの時がくると分かっていたので、頑張って落ちついて、言葉を選んだ。
「ついに行くんだね」
(寒さは大丈夫だろう 私の死体を抱いていれば今夜はしのげる)
「そんなことはどうでも良いよ」
(泣いているのか?)
「そんなことない、この日のために練習したんだ。泣いたりはしない。きっと君の気のせいだ」
(・・・・前に水の話をしただろう)
(私も死んだら水になる)
(この血も涙も全て天に上がる)
(彼方で凍りつく氷河になって)
(君の夢の光を受けよう)
(君の全ての夢の光を受けよう)
(光はきっと君に届く)
(だから泣かないで)
(顔を上げてご覧なさい)
(今 全ての夢が蘇ろうとしている)
涙が頬を伝って、苦い塩味が舌に触れた。もう行ってしまった友を抱きながら夜空を見ると、夢の光が目を貫く。
ああ、今、全ての夢が蘇ろうとしている。