第59期 #6
八丁林の探索は転校してきた小三の勇太の楽しみだった。
八丁林は小学校の裏にある山で近寄る子供達はいなかった。
放課後に友達のいない雄太が向かうのはいつも八丁林だった。拾った枯れ枝で草木をやっつけたり、いろいろ想像をたくましくしながら茂みを歩くのは楽しかった。
ある日の下校時間。勇太のカバンに二本のロープが入っていた。今日はそれを持って山に行くのが楽しみだった。
カバンを閉めると同じクラスの俊太が机の前に来た。
「お前八丁林で何してるんだよ。いつも一人で入っていくの俺知ってるんだぞ」
俊太は男子のリーダー格だった。
「別に、何にもしてないよ」
勇太はカバンを背負って教室から出ていった。
誰かに付いてこられたら嫌だと思い、急いで走った。俊太達に教室の窓から見られていないか心配になったのと、恥ずかしさが余計に足を早くした。
林の中へ、足の向かう先は決まっていた。太い枝が横に伸びている木。この枝は石を投げるとカンという心地いい音が響く。
勇太はここにブランコを作るのを楽しみにしていた。木の下に来るとカバンからロープを取り出しよじ登った。
太い枝だった。
ロープを一本ずつ結び、それぞれの端を地面に向けて垂らした。手頃な板を探し、縁にロープを結ぶ。
勇太のブランコが完成した。足をかけてこいでみた。
校庭、そして奥の夕日に染まる街を見た。
勇太の顔も赤色で染まっていた。
次の日は教室掃除の当番だった。勇太は早く終わらせて秘密の場所へ行きたかった。
林の中は早々と夕日に包まれていた。
林の乾いた空気も赤く染まっているように見える。勇太は茂みを踏みつけて駆け上がっていった。
ブランコの木が見えてきた。
しかしそこには俊太達がいた。友達を連れて昨日勇太が作ったブランコで遊んでいた。
それを見た勇太は悲しさでいっぱいになった。悔しさで頭が熱くなって震えた。俊太達に大切な八丁林を取られてしまった。
勇太は見つかる前にその場を立ち去ろうと思った。
「あ、勇太だ」
誰かが気づいて声を出した。今度は恥ずかしさでいっぱいになった。そしてその場から去ろうとした時、俊太の声が響いた。
「おい勇太これすごいな!お前が作ったのか?」
勇太は振り向き俊太の顔を見た。
夕日で赤くなった俊太の元気な顔が見えた。
「一緒に遊んでもいいか?」
俊太の声は林の中を響いていた。
勇太の顔も赤く染まっていた。胸中は嬉しさが広がっていた。
「うん!」
勇太は俊太達のところへ駆けていった。