第59期 #16
サトシは小学校の担任の高田先生に母親と共に呼ばれた。高田先生はいつになく厳しい顔つきだった。
「学校のウサギ小屋でウサギが内臓をえぐられ殺されていました。サトシ君がウサギ小屋に入ったという目撃証言があります」
不審がる母親を高田先生は別室に連れて行った。しばらくして戻って来た母親は表情が一変していた。高田先生はサトシの犯行だと決め付けた。
「サトシ君を警察に引き渡す。どうしてもやったと認めないのか? 嘘つきをこのまま警察に引き渡すと本校の名誉に関わる」
「ぼく、やってません」
高田先生は母親に目配せした。
「サトシ、手を出しなさい」と母親が言った。
サトシが手を差し出すと母親がそれを掴んでテーブルの上に押し付けた。高田先生がカッターナイフを取り出し、サトシの手のひらに顔を近づけカッターナイフの刃の先でサトシの指をくすぐった。
「指が五本、だから五回質問しよう。君がウサギを殺したと認めない間、一本ずつこれを突き刺す。小指から始めるよ」
サトシは泣き出した。
「先生、もう少し良いやり方があるんじゃないかしら」と母親。「うちの息子が先生の役に立つことをして、先生がその見返りをしてくださるといったような……」
「なるほど、続けて」
「サトシは花の卵を見つけたんですよ。そうよね、サトシ」
「…………」
「それは大変興味深いねえ。どこで見つけたか教えてくれるかい?」
「それとウサギとどう関係するの?」とサトシ。
「サトシが先生に協力すれば、先生も悪いようにはしないわ、そうでしょう、先生?」
「そうだ。君が花の卵の在りかを教えてくれれば、君を警察に引き渡すのはやめてあげよう。どうだ?」
「ウサギと花の卵はどう関係があるの?」
「今、先生がおっしゃったでしょ。先生の言う通りにしなさい」
「これは取引だよ。サトシ君。君がコンビニでお菓子を買って金を払うのと同じことだよ。君はお菓子を手に入れ、コンビニは金を手に入れる。双方得をするんだ。それが取引だよ。この世界はみな取引で成り立ってる」
「ぼくはウサギを殺してない」
高田先生は立ち上がり、テーブルをバンと叩いて頭の上からサトシを怒鳴りつけた。
「花の卵はどこだ! 答えろ!」
サトシが花の卵を見つけたのは偶然だった。神社の境内の森を友だちと探検に来たら、大きな木の根っこの下に小さな丸いものが輝いていた。あれが、宇宙人の侵略から地球を救う鍵なんだ。サトシは歯を食いしばった。