第52期 #13
新しい蒲団と少ない荷物が置かれただけの小さな部屋に暮らしはじめた。空気の乾いた季節、わずかに残っていた湿気も窓枠に凍りついては解けて乾き、陽は差さないが暗がりという訳でもない、そのような冷たく乾いたところに僕は蒲団を敷いたままで立ち上がり、外の雑木林を眺め、座り込んでは眠ることを繰り返していた。樹々を揺さぶる空気の流れはやがて部屋に入り込み、一巡りして外へ出る。僕自身が外へ出る必要性は感じないのだった。陽の光にほとんど当らない生活ではあったが、一度、真夜中を過ぎた時刻に顔を照らされて目を覚まし、隣接する棟との間、狭い空に浮かぶ白い半月を見た。ああこれが下弦の月というものだなと考えて目を瞠った。月もまた冷えきって白く乾いた場所であると思った。この部屋に暮らすかぎりは僕が月を訪れる必要性は無いのだと考えながら眠りについた。