第52期 #14
アニメの主題歌を歌うことで一生食っていける状態までのしあがったロイヤルゼリーちゃんズは、全国ツアーのしめくくりを5秒前に控え、舞台袖にスタンバイしていたが、虫の息だった。46の都道府県で演奏してきた肉体はボロボロで、あおむけだった。残り1秒で機械のような動きで立ち上がり、そこから人間味をとりもどしてかっこいい顔でステージへおどりでた。
まず、彼らの目に飛び込んできたのは、焼け野原だった。人気がまったくないし、まだ草が燃えているから少なくとも人っ子一人いなくなってからかなり経っている。彼らは、全員何も言わずに後ろをふりむいた。かなりでかいスクリーンに、岸田(マネージャー)が顔だけ表示されている。画面の隅「生中継」という文字を指差しながら、岸田(マネージャー)はかなり上からの目線で話しはじめた。
「おまえたちはほんとうに、ちょっと売れたからって、なんだ。おまえたちには『はい! 岸田さん!』の頃のあの気持ちを取り戻してほしいと、こう思っている。 それではルール説明をします。まずは、映像をごらんください。」
岸田(マネージャー)はそう言い終わってからスッと口を閉じ、画面が切り替わるのを待った。大画面が二分割され、左には岸田、右にはなにやらCDショップの映像が映し出された。
「はい。」
岸田(マネージャー)がリモコンのくそでかい赤いボタンを押した。右の画面に、陳列されているロイヤルゼリーちゃんズのCDがぐいぐい大写しになっていき、画面がとまった瞬間、大爆発が起きた。
「はい。おれもびっくりした。きみたちの歌詞カードには、すべて平べったい爆弾が挟み込まれている。25秒に一枚ずつ、全国で好評発売中の爆弾が爆発していく。君たちにできることは2つある。君たちが持ち歌を演奏している間、特殊な電波が発信され、くわしい説明ははぶくが、爆弾は爆発しない。また、横浜にいるおれの懐に隠されている青いボタンを押すことで、爆弾は完全に停止する。タイムリミットは1時間だ。がんばって24秒以内の休憩をはさみながら歌って横浜まで来てくれ。売れても努力するということは忘れないようにしたいね。では。」
ロイヤルゼリーちゃんズは振り向き、イントロを開始させた。
エンジンかかりっぱなしの2台のバイクが向こうに見えた。ギターソロが終わると、2番の歌いだしとともに彼らは走り出した。