第52期 #10

妹の血

「お兄ちゃん捨てて」
 朝、部屋のドアが散々に叩かれ、その騒音で目覚め、布団から抜け出、部屋を出れば妹がストアーの袋に入ったゴミを寄越してきて、今日はゴミ収集日だと思いだし、俺の部屋の窓からゴミ集積場所へゴミを投げ捨て収集車到着の時間にぎりぎり間に合わせる意図だと諒解し、ゴミの詰まった袋を受け取り、や、と窓から放り投げた拍子に何かが窓際のプランターに落ちた。血塗れのタンポンだった。なぜ袋から転げたかは分からないが、まさしくそれは白い細いソーセージ状の端に紐を付けた挿入器であり、しかも使ったばかりで剥きだしのそれには経血がべたりと付着し、妹のどす黒い血のいくらかは窓際のプランターの腐葉土に染みこんだ。
 マンドラゴラなる伝説上の植物を思いだし、確かあれは経血と精子を混ぜあわせて地面に放置すると芽を出すのではなかったかと曖昧な知識がもたげ、そしてあれは根が人間の形をしており、地面から引きぬく際に悲鳴を発しそれを聞けば絶命するのではなかったか。伝奇的恐怖に苛まれ布団に舞い戻る。
 妹は幼少のみぎりに近隣の変態に誘拐されたほど可愛い顔をしており、両親にちやほやされて育てられたのであり、チヤというよりかは次亜で、消毒に使う次亜塩素酸ナトリウムで、ホヤとは貝のホヤで、要するに清潔な性器なのであり、そのマンコを大学入学以来誇り、数多の若き男根をむさぼり、高校のころはあんなに真面目だったのにセックスを覚えてからは頭と行儀を悪くする一方で、ゆえにあのタンポンに、生理中だからと避妊具無しに接合したがった男の精子が残存していて既に妹の血と混ぜあわさっているかもしれない。
 朝食を摂った後のダイニングで煙草をふかし、プランターからマンドラゴラが生える様子を思い浮かべていると、妹が洗い物をする母親に云った。
「妊娠しちゃったから堕ろさなきゃ」
 なぜかその時俺は、俺が妊娠させた訳ではないよな、と自分に言い聞かせ、そんな記憶もないしそんな欲望もなかった筈だが俺の子かもしれない、俺の子だ、という罪悪感が居たたまれぬほどにこみあげ、いや確かに俺ではないが、何につけ妹びいきで中小企業でしがない社員をしている俺を小憎らしいと思っているであろう母親は、少なくとも近親相姦の副産物であろうと勘繰っている、と思えてきて、息苦しい。
 しかし妊娠した女にはそもそも生理が来ないのであり、これは妹なりの金の無心の隠喩に違いない。



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