第51期 #5

夏夜

三日三晩泣き続けていたら、一人の女が私に話しかけてきた。
「あなたはその悲しいことに三日も泣くことができるのなら、あと三日その木の上で泣いていていただけませんか」
そう私に話しかけると女は夜の森の中へと消えていった。綺麗な女だった。声もまた大変綺麗だった。私は女に言われたとおり木に登ってみることにした。私は木によじ登りながら、なぜ自分が女の言うとおり木に登っているのか考えた。この木は背丈が高い。この木に登って夜明けを待てば、きっと綺麗な日の出を見ることができるだろう。それを見れば私の心もきっと晴れるのではないかと、おそらく私は思ったのだ。三日三晩も泣き続けた私は自分の思ったことも明快でなくなっていた。

木登りなど久しぶりでまだ子供の時分以来だったから、すぐ手が痛くなってしまい登るのに時間がかかった。いくらか登ってちょうどよく腰を掛けられる枝を見つけた。頭の上では月の光を帯びた雲を後ろに木のてっぺんを確認できる。この周りにある木も私の目線と同じくらいの背丈だが、腰掛けているこの枝の上に立てばきっと日の出を見ることができるであろう。私は幹を抱えながら日の出を待った。

いくらか木の上に腰掛けていたら段々と東の空が白けてきた。私はいよいよかと今腰掛けていた枝の上に立ち日の出を待った。
木々の上に白い帯が広がり、太陽がその顔を出した。思ったとおり大変綺麗だった。だが、だんだんとその光に私の目が痛くなってきた。私はまた泣き始めてしまった。でもまたあの日の出の美しさを一瞬でもいいから感じたいと思った。

三日経ったが私はまだ悲しかった。三日三晩泣き、そして木に登ってからの三日も涙が私の頬をつたり続けた。涙は私の頬に深いしわを残した。たてに幾重にも彫られているのが分かる。今もまた私は泣いている。もうなぜ泣いているのかも忘れてしまった。もた一粒、私の頬を涙がつたっている。
セミが一匹闇夜から飛んできて私の涙をなめた。綺麗なセミである。大変おいしそうになめている。よほど腹が空いていたのだろう、いつまでもなめ続けていた。月が雲から顔を覗かせた。風がわっと吹いて私の体が大きく揺れた。セミは驚き羽をばたつかせて夜の森の中へと消えていった。

私はいつの間にか一本の木になっていた。



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