第43期 #27

目玉

 ブラウスの上からホックを外し、はだけさせた胸元に這わせていた右手で、そっとブラを引き抜いて露わになった乳房に顔を埋めようと、吸い続けていた唇から顔をあげると、そこに目玉があった。
 大きくはないが、碗を伏せたような格好の良い乳房の、ちょうど乳輪にあたる場所に半ば埋め込まれた形で、ギョロリとせり出しているその目玉は、目蓋を持たず剥き出しのままで、確かにこちらを見ているようであったのだけれど、表情というものがまるでなく、しばらく見合わせているうちに、軽い眩暈を覚え、そういえば乳輪のことを乳暈というのだということを思い出す。
 女に気取られぬよう左手で左の乳房を下から包みゆっくりと揉みしだきながら、右手を右乳房の目玉に近づけると、目玉は確かにそちらを見るようなのだけれど、やはり何の表情もなく、目は口ほどにものをいうなどというが、実際にものをいっていたのは実は目蓋ではないかと思い、確かに目蓋の動きは唇に似ていて、すると人の顔には口が三つあるではないか、とその考えに、思わずハッとしてしまい、左手を女のスカートの中へと滑り込ませると、おそるおそる下腹部に触れさせた。
 案に違って、指の腹に感じるそれは他の女とかわることのないもので、少し指を沈ませてみたが、固い歯にあたるということもなく、顎を反らせ目を瞑ったままの女が、上の方の口で「ダメ」とかすかに洩らすだけだった。その様子に、少し乱暴に掌を下腹部に押しつけてから、反らせたままの顎に舌を這わせると、自然と女の胸が身体に触れ、少し冷たいような目玉の感触が伝わってきた。その感触に、子どもの頃、戯れに自分の目玉に触れ、その後何時間も鈍く痛かったことを思い出し、ハッと身体を離すも、女は薄く目を開け、潤んだ目でこちらを見るだけで、痛がっているようでもなく、つまりこの目玉は女の目ではないのだと思う。
 だとすると、この目玉はいったい何であるのか。色欲と綯い交ぜなったような妙な好奇心が下腹部の熱さと共にもたげてきて、まるで無垢そのもののようなこの目玉を汚したいと思い、両乳房を鷲掴みにすると、少しせり上がった目玉をパクリとくわえ込んだ。嬲るように舐ると、目蓋を持たない目玉は抵抗する術もなく、女は喘ぎ声をあげた。その喘ぎ声に、ああ、そうか。この女は今、子を孕んでいるに違いないと思う。
 万一、そうでないとしたら、それはつまりどういうことになるのだろうか。



Copyright © 2006 曠野反次郎 / 編集: 短編